ファイナンス 2021年5月号 No.666
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ロールダウン(トータル・リターン)は2.8円になります。そのうえで、仮にこの1年間で31ベーシス(≒2.8%/9)金利が上昇した場合、1年後、9年債になることに注意すると、9×31bps≒2.8円評価損を抱えることになりますから、ちょうど先ほどのトータル・リターンと一致し、結果的に国債を投資することから発生する損益がゼロになることがわかります。すなわち、トータル・リターンをデュレーションで割ることで、金利が上昇したときのリターンがゼロになる金利上昇幅を逆算することが可能になるわけです。ちなみに、トータル・リターンをデュレーションやボラティリティで割ることで、いわばリスク調整後の*10) 「第47回 国の債務管理の在り方に関する懇談会」では、「トータルリターンはBuy and Hold・期間6ヶ月でのキャリー+ロールダウンで計算、リスクフリーレート0%、ボラティリティは250営業日・日次ベース、2~30年債を用いて試算」としています。*11) 10年国債の償還月は3月、6月、9月、12月です。リターン(シャープ・レシオ)として解釈し、投資効率を考えるケースもあります。イールドカーブが右肩上がりである以上、年限が長い国債の方が利回りが高い構造にありますが、一方で、長い年限の国債には高い金利リスクがあります。そのため、国債のリターンをリスク量(デュレーションやボラティリティ)で割ることで、リスク当たりでみたリターンを計算しているわけです。例えば、三菱UFJ銀行は「国の債務管理の在り方に関する懇談会」で用いた資料においてキャリー・ロールダウンをボラティリティで割ることで投資効率について分析を行っています*10。BOX 実際のロールダウンの値はモデル依存ロールダウンの計算結果はモデルに依存することを認識しておく必要があります。例えば、10年国債に投資したときの1か月のロールダウンを計算する場合、現在のカレント(オン・ザ・ラン)銘柄の10年国債からちょうど1か月短い国債は存在しません*11。そのため、現在の市場で得られる国債の価格や利回り等を用いて、カレントの10年国債からちょうど1か月短い国債の金利を推定(補間)する必要があります。もちろん、その補間をするうえで様々なモデルがありますから、ロールダウンはその意味でモデル依存といえます。例えば、Bloombergではロールダウンの定義を、「[債券のスプライン・フィッティング後最終利回り]-[償還期間から保有期間を引いた期間のスプライン・フィッティング後利回り]」としていますが(この定義からBloombergでは金利上昇のクッションとして解釈できる定義を用いています)、これはスプライン関数を用いてカーブ・フィッティングし、金利を推定(補間)していることを意味しています。スプライン関数などイールドカーブの補間の詳細を知りたい読者は三宅・服部(2016)を参照してください。4具体的な事例ロールダウンの計算期間設定最後に、ロールダウン効果を具体的に用いたケースを紹介します。まず、実際にデータを使ってロールダウン効果を算出するためには、「イールドカーブが不変」とする期間を決めないといけませんが、残念ながら、業界で統一的なものはありません。その理由はイールドカーブが不変であると考えられる期間は実務家の相場観などに依存するためです。金融機関のアナリストの資料などではデフォルトのような形で3~6か月の期間が選ばれることが多い印象ですが、1年などの長い期間や1か月という短い期間が用いられることも少なくありません。ロールダウンが用いられている分析を見る場合、イールドカーブを不変としている期間はどれくらいか、また、その期間に妥当性があるか等を意識する必要があります。Bloombergなどを用いた場合、国債の各銘柄ごとのキャリーとロールダウンを計算するツールを有していることが多いです ファイナンス 2021 May.41ロールダウン(ローリング)効果入門SPOT

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