ファイナンス 2021年5月号 No.666
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読者がこの10年債に投資した場合、1年後は(年限は1年短くなっているため)毎年1円をもたらす9年債になっています。このことは1%の利回りを有する9年債と解釈できます。もし仮に1年後もイールドカーブが変わらなかった場合、9年債は(前述のとおり)0.8%でマーケットで取引されているため、読者が保有している1%の利回りを生む9年債は市場の実勢からみて、0.2%(=1%-0.8%)だけ魅力的な金利が付されていることを意味します。この債券を時価で評価した場合、9年債のデュレーションを9とすれば、0.2%だけ金利が低下することで9×0.2%=1.8円の含み益が生まれることになります。この含み益を生むメカニズムがロールダウン効果(ローリング効果)です。この効果をなぜロールダウン効果というかというと、キャピタル・ゲインを得るプロセスが、カーブを転げ降りていくイメージであるからです。図1がイールドカーブを表現していますが、時間が低下するにつれて年限は短くなりますが、前述のとおり、カーブが変わらなければ金利がカーブを滑り落ちるように低下していき、このことが価格上昇の効果をもたらします。図1 ロールダウン効果のイメージ金利年限9年10年1%0.8%今保有している10年債は1年後9年債へ。イールドカーブが不変であれば、金利は0.2%低下し、含み益が得られる2.2 ロールダウン効果のフォーマルな定義ここで少しフォーマルにロールダウン効果を定義します。服部(2020c)で記載したとおり、金利の変化に対して、デュレーション倍だけ価格が上昇しますから、t時点におけるロールダウン効果(roll downt)*3) 例えば、三菱東京UFJ銀行(2012)は、「銀行ALMの債券ポートフォリオ運営における期待収益は、資金収入(キャリー収益)とロールダウン収入(右肩上がりのイールド・カーブを前提とした場合に時間の経過とともに金利が低下して発生するキャピタルゲイン収入)の総和である」(p.37)とコメントしています。は下記のように定義できます。roll downt=D(T-1)×(rt(T)-rt(T-1))(1)ここでrt(T)をt時点におけるT年債の利回り、rt(T-1)をt時点におけるT-1年債の利回りとします。前述の例を用いて確認すると、10年金利が1%であり、9年金利が0.8%でしたから、rt(T)=rt(10)=1%、rt(T-1)=rt(9)=0.8%となります。先ほどと同様、9年債のデュレーションを9とすると(D(T-1)=D(9)=9)、ロールダウン効果はD(T-1)×(rt(T)-rt(T-1))=9×(1%-0.8%)=1.8円(対100円)という形で計算できます。式(1)をみると、ロールダウン効果の大きさは、(a)デュレーションの大きさ(D(T-1))と(b)イールドカーブの傾きの度合い(rt(T)-rt(T-1))に依存することがわかります。そのため、超長期ゾーンなどデュレーションが長いゾーンに加え、イールドカーブの傾きが急なゾーンはロールダウン効果が大きい傾向があります。2.3  期待リターンとしてみたロールダウン効果債券の実務の世界では、債券の期待リターンを定義するうえで、上述で定義したロールダウン効果に加え、利子収入などから得られるインカム・ゲインも加えることがあります*3。ここで、時点tにおいてt+1期までに(イールドカーブが不変であったときに)得られる債券のリターンを「キャリー・ロールダウン」(Carry & roll downt)とし、下記のように定義します。Carry & roll downt=rt(T)+D(T-1)×(rt(T)-rt(T-1))(2)ここではインカム・ゲイン(キャリー)をrt(T)で表現しています。ロールダウンについては式(1)と同じ定義を用いています。キャリーロールダウン38 ファイナンス 2021 May.SPOT

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