ファイナンス 2021年5月号 No.666
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6コモン・センス以上、いろいろと述べてきたが、最後に筆者が述べておきたいのは、コモン・センスを大切にするということである*40。受益と負担が表裏の関係にあるというのはコモン・センスだ。「稼ぐに追いつく貧乏なし」や、「よく学び、よく遊べ」、「嘘つきは泥棒の始まり」「信なくば立たず」などもコモン・センスといえよう。「絶望を希望に変える経済学」では、昨今、官僚や政治家は無能だとか金に汚いと決めつけるのが大流行だが、こうした風潮は百害あって一利無しだとしている*41。そのようなイメージが定着すると、人々は政府の介入があきらかに必要な場合であっても、いかなる政府介入にも反射的に猛反対するようになる。政府で働こうと志す優秀な人が減ってしまい、政府はますます非効率になる。政府は腐っていて無能だと言い続けていると、市民はそのうち政府の行動に無感覚になり、注意を払うことさえしなくなる。メディアが小さな腐敗探しに熱中していると、大規模な汚職の余地を生むことになりかねないとしている。「官僚や政治家は無能だ」と決めつけることは、「人は褒めて使え」というコモン・センスに反することだ。社長が「うちの社員はダメだ」と決めつけているような会社で社員が育つはずはない。「信なくば立たず」なのである。主権者である国民が、コモン・センスを大切に、政治や行政の場で人材を生かして使えるようになれば、日本が今日の低成長を脱却して豊かな社会を築いていくことは難しいことではないと思う。明治維新期の経済成長も、戦後の焼け野原からの経済復興も、とんでもないところから始まった。世の中、希望がなくなることはない。そして、そのような希望の実現を目指す政治家やそれを手助けをする官僚は素晴らしい仕事なのだ。*40) 筆者は、主計局の主査時代、ある上司から、どうして主査に査定権限があるのかわかるか、それは主査が「偉大なる素人」だからだと言われた。コモン・センスを大切にしろということだったと考えられる。コモン・センスに気付かせてくれる卓越したコラムニストとしては山本夏彦氏をあげることが出来よう。同氏の著作には「愚図の大忙し」(文春文庫、1996)などがある。*41) 「絶望を希望に変える経済学」p390―9236 ファイナンス 2021 May.危機対応と財政(番外編-最終回)SPOT

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