ファイナンス 2021年5月号 No.666
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765億ドルの第一弾支援パッケージの発表と顧客との対話強化:各国にグラント中心の支援を展開しつつ、生活面・健康面の不安を抱えながらほぼ100%の在宅勤務体制に適応していくのと同時並行で、ADBは「65億ドル*16の第一弾支援パッケージ」を3月18日に公表した。ただしこの65億ドルは、(1)2020年に理事会承認を得るべく計画中だったプロジェクトのCOVID19対策への変更、(2)技術協力向けグラント財源を各局から回収しCOVID19対策に集中投下*17、(3)進行中のプロジェクトで生じ得る余剰資金等、をかき集めたものであり、ADBとして追加で資金調達し、COVID19対策のためにバランシートを拡大するものではなかった。また初動の段階で必要性が認識されていた制度・手続きの改善や、新しい融資制度の導入についても、この時点では水面下で準備を進めている段階であった。この点、浅川総裁は、ニュースリリース*18で「ADBは、今後の状況に応じて、この65億ドルのパッケージに加えて追加的な資金支援や政策アドバイスを行う用意がある」と強調、4月13日に公表することとなった200億ドルの包括支援パッケージに向け*16) 65億ドルの内訳は、政府向け(Sovereign Operation)46億ドル、中小零細企業支援を中心とする民間企業向け(Non-Sovereign Operation)16億ドル、そして医療機器等の購入のための技術協力やグラント資金の提供4,000万ドルとなっている。*17) 上記2-(4)で触れた通り、回収した技術協力グラントは、SDCCが管理する4,600万ドルのメガTAが受け皿となった。*18) 出典:ADB News Release | 18 March 2020, “Announces $6.5 Billion Initial Response to COVID-19 Pandemic”*19) 浅川総裁が2020年3月半ばからの約一か月でオンライン面会を行った大臣、首脳等は以下の通り。ヴェトナム財務大臣(3/20)、インドネシア財務大臣(3/24)ヴェトナム中銀総裁(3/24)、カザフスタン経済大臣(3/25)、ジョージア財務大臣(3/25)、英国DFID担当大臣(3/26)、フィリピン財務大臣(3/27)、ウズベキスタン財務大臣(4/1)、フィジー経済大臣(4/2)、キルギスタン大統領(4/3)、ジョージア首相(4/8)、インド財務大臣(4/9)、タイ財務大臣(4/17)、中国財務次官(4/21)、パキスタン経済大臣(4/24)、フランス開発庁長官(4/28)、ネパール財務大臣(4/29)て布石を打っている。この時期から、浅川総裁と各国の大臣、首脳、あるいは他の国際機関のヘッドとのオンライン対話が頻繁に行われるようになった*19。先進国の大臣や開発機関のヘッドとのやり取りでは、パンデミックにより甚大な経済・社会・公衆衛生上の被害を被っている途上国に対する支援をパートナーシップを強化して臨むことで一致。また、開発金融機関(MDB:Multilateral Development Bank)とIMFとの間の対話も様々なレベルで頻繁に開催されることとなった。毎年2-3回のペースで行われていた「MDBs総裁会合(MDBs Heads Meeting)」や「地域開発金融機関(RDB:Regional Development Bank)総裁会合」は3月と4月だけで計3回開催。これに加え、各機関の地域局同士が本部及び現地事務所間で連携を強化、さらにリスク管理担当、法務担当、施設・内部管理担当の各機関の責任者たちが、組織管理上の様々な課題や取組みを共有するために対話を密にしたのだった。途上国の大臣や首脳とのやり取りでは、ADBが迅速に提供したグラント資金により、調達が急務だった医療防護服、人工呼吸器、検査キットの確保、及び2020年3月、スクリーン越しに一堂に会したMDBsの総裁とIMFの副専務理事。開発金融機関、及びIMF間の協議・連携は、危機を受けてより頻繁且つ多様なレベルで行われるようになった。28 ファイナンス 2021 May.SPOT

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