ファイナンス 2021年5月号 No.666
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3小野 尚先生 (SBI生命保険株式会社 代表取締役社長)プロフィール1983年に大蔵省(現財務省)に入省、財務省国際局地域協力課長、金融庁審議官(企画・市場・官房担当)・総括審議官、財務省関東財務局長を歴任し、2017年に退官。Profit Cube Inc.顧問、ミュージックセキュリティーズ顧問、日本信用情報機構 常務執行役員を歴任し、2018年4月 SBI ホールディングス顧問に就任。2019年4月より現職。―地域金融機関については、本業赤字の常態化、市場運用の高度化の遅れ、システムコストの増大、事業承継問題、デジタル化・業務効率化の遅れ等が指摘されています。SBIグループの支援は、支援先に応じて様々と伺っていますが、例えば資本提携が必要なのはどのような金融機関で、資本提携までは必要ないのはどのような金融機関になるのでしょうか。生命保険や損害保険等のSBIグループの裾野の広さが地域金融機関との提携にもたらすメリットはどのようなものがあるでしょうか。小野 SBIグループと地域金融機関の連携については、昨今資本提携が大きな注目を集めていますが、実は既に数年前から、地方創生を支援する観点から、様々な形での地域金融機関との連携に取り組んできました。各地域金融機関が提供できる金融商品は限界があります。SBIグループとの提携により多種多様な商品を提供できるようになり、顧客のニーズに応えられるようになります。例えば、私が社長を務める生命保険分野では、団体信用保険(以下、団信)において事業性ローンへの付保に取り組んでいます。団信は通常住宅ローンが中心ですが、当社では事業性ローンに対しても広く付保することとしており、事業主が亡くなった場合のみならず、病気になった場合等にも事業性ローンの返済を保険で賄う仕組み、また、12ヶ月病気で働けない状態が続いた場合には残債全てを保険がカバーするような仕組みを導入しています。コロナ禍で不安を抱える事業主に一定の需要があります。設立後まもないSBI生命保険だからこそできる新規事業と言えると思います。ご質問の資本提携の必要性については、抜本的な経営改善が求められるところは手厚い資本提携が必要であり、そこまで必要なければ持ち合い等でシンボリックな資本提携にとどまったり、あるいは資本提携のない形での業務提携も行うこととしています。出資自体が目的ではなく、目的はあくまで共通のプラットフォームをつくることです。―コロナ禍が地域金融機関との提携の方向性に与える変化はあるのでしょうか。提携先の地域金融機関について、コロナ禍の業況をどのように見ますか。小野 コロナ禍にあって、一番手をつけなければならないのは、資産運用の高度化と事業承継への対応です。資産運用についてはSBIグループの地域金融機関からの預かり資産は右肩上がりで増加しており、資本業務提携先以外からの需要も増えています。事業承継については、地域金融機関や公的機関から出資を募り事業承継ファンドを設立しました。単純にM&Aで売却益を出すという目的ではなく、SBIグループ或いは出資先の様々なサービスを活用して経営を改善し、企業価値を上げてファンドから卒業して頂き、最終的に地域で半永久的にサステイナブルな形で事業活動を行うことによって、地域の活性化に貢献してもらうことを目的としています。例えば、一号ファンドでは調剤薬局を扱いました。規制緩和以降、調剤薬局が全国各地に数多く開業しましたが、今多くの薬局が後継者がおらず事業承継問題を抱えています。全国の調剤薬局をファンドの下に置き、調達の共通化等により業務改善したところ、粗利が4%も改善しました。現在、米卸、建設業について取り組んでいるところであり、さらに酒蔵、病院、旅館ホテルにも対象を拡大していく予定です。この事業承継ファンドでも地域金融機関との連携が鍵になっています。地域ではいまだ「ファンド」という名前に強いアレルギー反応を示されることがありま20 ファイナンス 2021 May.SPOT

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