ファイナンス 2021年5月号 No.666
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2新田 信行先生(第一勧業信用組合 会長)プロフィール1981年、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ与信企画部長、銀座通支店長、コンプライアンス統括部長を経て、2011年、常務執行役員。2013年6月から第一勧業信用組合理事長。2020年6月より現職。著書に『よみがえる金融 協同組織金融機関の未来』(ダイヤモンド社)。―地域経済においては、構造的に人口減少・人手不足が継続し、企業の事業環境に悪影響が生じています。地域金融機関にとっても地域経済は顧客基盤であり、短期的な利益の追求のみならず、中長期的な支援による地域経済の活性化も課題になります。新田先生は著書の中でも、顧客との関係構築、「リレーショナルシップ・バンキング」(リレバン)の重要性を訴えられていますが、他方で、一部の地域金融機関について顧客との関係が希薄化しているとの指摘があります。その背景には何があると考えられますか。新田 地域金融機関と言っても一つに括ることは無理があります。自分がメガバンクにいたころ、地銀・信金・信組は同じ業種のように見えていましたが、信用組合に移ってみると、株式会社か協同組織かで大きく異なることがわかりました。地銀大手は実体としてはもはやメガバンクと同様の業務形態であり、リレバンができるかというと、そのような規模ではありません。当組合の存在価値は、コミュニティの一員として金融包摂の役割を担っていることです。地銀を含めて他の金融機関が排除している会社や個人が依然として存在するので、潜在的に顧客の拡大余地はまだまだあります。―リレバンの普及の現状をどうご覧になりますか。コロナ禍はどのような影響がありますでしょうか。新田 残念ながら、リレバンの現状は低調です。第二地銀も株式会社化しなければ良かったのかもしれません。上場してしまうと、地域への収益の還元が難しくなってしまいます。コロナ禍において、新年会、祭り、花見など、地域の集まりが全てなくなりました。コロナ前から、地域の集まりが少なくなり、関係が希薄化し、祭りの開催も難しかったなかで、コロナ禍によりコミュニティの運営がさらに難しくなり、今後、回復していくかは微妙なところです。協同組織として活動する上で、このコミュニティが崩れつつあるのは非常に大きなインパクトがあります。―地域金融機関が短期的利益を追求して、貸しはがし・貸し渋りを行えば中長期的には地域経済が低迷し、また、顧客基盤を毀損してしまいます。他方で、リレバンを免罪符とした赤字の常態化は望ましくないように思います。リレーション・キャピタルを蓄積するための望ましい支出・投資の在り方はどのようなものなのでしょうか。新田 当組合は経費率が高いと言われますが、一般的な会計基準で経費とされるものの中身を見る必要があります。例えば、従業員に対する教育です。私は人的投資だと考えます。特に当組合は若手が多く、30歳以下が全職員400人中150人ほどを占めるため尚更です。利益の地域還元、例えばお祭りへの寄付等は費用なのでしょうか。私は地域コミュニティを支える投資だと考えます。私が提唱したリレーション・キャピタルというのは、金融マンとしての能力であり、地域の経済力です。これに必要な投資を削減すべきではないでしょう。しかし、目先の利益に囚われ、リレーション・キャピタルを毀損している金融機関が多いのが現実です。当組合でも、徹底的な経費削減によりトップラインが落ちたことがありました。一部の地域金融機関による経営統合についても、支店の廃止等によりリレーション・キャピタルをどんどん毀損しているのが現実だと思います。―協同組織金融機関については、出資者と地域経済がイコールであるため、リレーション・キャピタルへの投資が正当化されやすいと思います。他方で、株式会社形態である地銀について、リレバンを推進していくことは可能だと思われますか。新田 地銀についても、株主構成次第では可能だと思います。リレバンの推進という意味では非上場が理想的だと思いますが、いきなり非上場化というのは第二地銀であっても難しいでしょう。株主構成の再構成が可能であれば、地元の利益から遊離した短期利益を追求する資本の論理のみの投資家ではなく、地元の安定株主が中18 ファイナンス 2021 May.SPOT

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