ファイナンス 2021年5月号 No.666
21/96

エクイティへの分配が増えるという構造変化が、21世紀に入って加速しました。投資銀行の概念で、業界全体の収益のことをレベニュープールといいますが、銀行の法人向け金融に関わるレベニュープールが大幅に縮小している点が確認できます。低金利による利払い負担の減少もあるのですが、企業部門が資金不足から資金余剰に変容したことも要因です。預金を集めて法人に貸し出すモデル自体が、収益性を失っていることになりますが、特に、金利に依存した収益構造を持つ地銀が苦境に陥っています。業務粗利益に占める資金利益(金利収益)の比率は、メガバンクなどの主要銀行は52%であるのに対して、地銀は88%です(2020年3月期決算)。マイナス金利の影響は小さい金融機関ほど大きいのですが、それではなぜ、信金・信組より地銀に注目が集まるのでしょうか。答えは、信金・信組には、中央組織があるからです。KYC(Know Your Customer:本人確認)システムなど、システム面での負担は高まっていますが、信金・信組については、こうした対応は中央組織である信金中金・全信組連が担っています。他方、地銀は単独で対処する必要があります。―収益環境の悪化も一つの背景として、地域金融機関の統合に注目が集まっています。経営統合を収益向上に結び付けるにはどのような方策が必要でしょうか。あるいは、経営統合以外にどのような道が考えられますか。野﨑 過去の合併の事例を見ると、コスト削減だけは何とか出来ていても、収益力を増やすのは難しいことがわかります。再編としてうまく行くシナリオは同一の域内あるいは隣接する地域の再編です。普段競合している金融機関同士が手を組むことで、持続性の高い金利設定などをうまく出来る可能性があります。米国での銀行再編に関する実証研究でも、再編でうまく行っているのは、ビジネスの同質性が高い、あるいは地理的に隣接する銀行間の再編であって、証券ビジネスや資産運用などの機能の幅が広がる再編や、遠隔の銀行間の再編ではないことが分かっています。金融コングロマリットと言うと強そうなイメージがありますが、実際にはうまくいかないのです。一つの道として、地域金融機関の非上場化も考えられます。地域コミュニティが地域金融機関の株主になり、コミュニティの利益追求と銀行の利益追求を一致させる、というコミュニティ密着型の金融機関の道もあると思います。―本日はお忙しい中、地域金融機関の置かれた状況について貴重なお話を伺いました。誠に有難うございました。(この勉強会は、1月15日に行われました。参加メンバーは川本・大槻です。)図1 日本企業が生み出す付加価値の分配先のうち、銀行の取り分が激減:法人の付加価値の資金の出し手への分配の推移(兆円)-1080706050403020100196019651970197519801985199019952000200520102015(出所)法人企業統計を元に野﨑氏作成内部留保株主銀行等 ファイナンス 2021 May.17財務省再生プロジェクト 部局横断的勉強会(3) SPOT

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る