ファイナンス 2021年4月号 No.665
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措置を実施した。中国も米国の対応に応じる形で追加関税装置を実施してきた。これら相互の追加関税措置により米中貿易摩擦が激化し、2019年後半の世界経済は減速するに至った。IMFは2017年に3.8%であった世界の実質GDP成長率が2018年に3.6%、2019年に2.9%に低下するとの見方を示した。2019年9月11日、トランプ大統領は、10月1日に予定されていた第1弾から第3弾の追加関税率の引上げを、中国の劉鶴副総理の要請と中国建国70周年記念日を考慮し、10月15日に延期する旨を表明した。そして、その後に開催された閣僚級協議において米中間で第一段階の合意がなされたとして、上記関税率の引上げは見送られた。11月には、米国において、香港でのデモを受け「香港人権・民主主義法案」が成立するなど、米中関係の更なる悪化が懸念されたが、12月13日、米中両政府は改めて第一段階の合意に達したと発表し、翌2020年1月15日には第一段階合意文書への署名が行われた。この合意は米国産の大豆をはじめとする農産品や工業製品、エネルギーの輸入を特定年の2017年対比で2020年に767億ドル、2021年に1,233億ドルの合計2,000億ドル増加させることを規定している【図表4】。貿易拡大【合意文書第6章】●米国からの財・サービスの輸入を2017年水準から2,000億ドル以上増加。(2020年1月1日から2021年12月31日までの2年間)追加関税措置緩和●「第4弾」への対抗措置(輸入額規模約750億ドル)→「第4弾A」への対抗措置発動(2019年9月1日)分を5-10%から2.5-5%へ引き下げ。(2020年2月14日発動)※「第4弾B」への対抗措置(2019年12月15日発動予定分)は引き続き発動見送り。(出所)財務省審議会資料令和2年10/23中国ところが、米国のシンクタンクであるピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)によると、2020年通年の中国による達成状況は約58%から59%にしか満たないとされる。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大などにより達成からほど遠いという厳しい現状が伺える。3.バイデン政権の対中方針2021年1月に発足したバイデン政権は、それまでのトランプ政権の政策を次々と転換した。自国第一主義を改め、欧州をはじめとする同盟国との協調を掲げ、WTOなどの国際枠組みを重視するとした。中国に対しては懲罰的な制裁関税は用いないとしつつ、トランプ政権の発動した追加関税を維持し、中国の新疆ウイグル自治区におけるウイグル族への弾圧、【図表2】米国の対中輸出入品目別〔2020年〕大豆11.4%ICチップ8.2%電気機器12.1%繊維製品3.7%玩具・遊戯用具2.5%テレビ類1.9%椅子 1.8% 機械部品4.0%原油5.4%自動車4.9%航空機・エンジン3.5%医療機器 2.5%その他60.1%<中国への輸出(品目別)>2020年合計1,246億ドル情報処理機器12.2%その他65.8%<中国からの輸入(品目別)>2020年合計4,354億ドル(出所)米商務省【図表3】国別貿易赤字の内訳(財のみ・原数値)▲419▲345▲311▲57▲56▲55▲113▲70▲243▲816▲504▲635▲725▲730▲689▲734▲745▲735▲792▲872▲854▲90520202019201820172016201520142013201220112010200920080▲1,200▲1,000▲800▲600▲400▲200(十億ドル)(年)(出所)米商務省中国ドイツアイルランド日本メキシコベトナムその他順位12342008年中国日本メキシコドイツ2019年中国メキシコ日本ドイツ2020年中国メキシコベトナムドイツ【図表4】米中第一段階合意の内容追加関税措置緩和【USTR告示(合意文書から独立)】●「第4弾A(2019年9月1日発動済)」(輸入額規模約1,200億ドル)→15%から7.5%へ引き下げ。(2020年2月14日発動)※「第4弾B(2019年12月15日発動予定分)」は引き続き発動見送り。●「第1弾~第3弾」(輸入額規模約2,500億ドル)→現行の25%を維持。米国 ファイナンス 2021 Apr.77コラム 海外経済の潮流 133連載海外経済の 潮流

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