ファイナンス 2021年4月号 No.665
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原油価格変動が日本に与える影響・日本は化石燃料を輸入に頼っており、取引価格の変動は、物価に影響する。主な使途の一つである発電をみると、電力会社ごとの燃料構成による差異があるものの、原油価格変動が3か月程度遅れて作用するLNGの変動も相まって、足元では電気料金の低下が、物価全体を押し下げている(図表6)。・直近10年間を見ると、輸入量と輸入価格の積である総支払額は、最大の2013年度で約14.5兆円、原油価格が下落した2016年度は約6.2兆円となっており、原油価格の変動により、8兆円程度の規模で対外収支が増減する効果があった(図表7)。・企業にとっては、売上原価を増減させる効果があり、輸入価格が上昇すると、時間差を持って利益を押し下げる効果が働く(図表8)。販売価格が固定的な業種では最終利益の増減に直結し、販売価格が柔軟に動く業種では、消費者の利益が増減することになる。図表6 原油、LNGおよび 電気料金水準の推移(2019年末価格=100)1401201008060402012010080601357911135791120192020(注)ドバイ原油先物価格は単位当たりドル、他項目は   単位当たり円を参照ドバイ原油先物原油輸入価格LNG輸入価格東京電力平均モデル料金(右軸)図表7 原油輸入量と価格2302101901701501301109020091011121314151617182019807060504030(百万KL)(千円/kL)(年度)原油輸入量原油輸入価格円建て価格(右軸)(注)年度の原油輸入価格は毎月公表価格を平均したもの。図表8 利益に対する原価増減の 寄与度および原油CIF価格(前年比)0.30.20.10.0-0.1-0.2-0.3-1.0-0.50.00.51.01Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q201520162017201820192020(%pt)(%)(注)原価要因は、前年同期比の値がプラスの時に原価   が抑制されたことを示す。原価要因(対経常利益)原油CIF価格(右軸)原油価格の展望・OECD諸国の原油需要は2005年に頭打ちとなっており、中国を中心とした非OECDが需要増加を牽引している(図表9)。中国も労働力人口が減少傾向にあり、人口要因から需要が頭打ちとなる可能性が指摘されている。・また、欧州を中心に、発電における化石燃料使用を抑制する動きがあり、環境規制の強化から需要が軟調に推移することで(図表10)、需要低下に基づく価格下落が生じる可能性も否定できない。コロナウイルス感染拡大に伴う原油価格下落時には、産油国で、財政安定性の目安となるCDSスプレッドが急上昇(悪化)する事態も生じた(図表11)。・一方で、地政学的リスクが高まり、供給が制約される事態が生じれば、価格高騰を生むおそれもあることには留意が必要である。図表9 地域別原油需要8000060000400002000001000001992199519982001200420072010201320162019(千バレル/日)OECDインドCISブラジル中国その他図表10 化石燃料由来発電割合867666626362534767561390100908070605040302010日本中国アメリカイギリスドイツフランス(%)2015年2020年図表11 産油国CDSスプレッド(注)数値取得時の制約上、一部データの欠損が存在。04003002001002020/12020/32020/52020/72020/92020/112021/1アブダビサウジアラビアカタールインドネシアロシア(出典)Bloomberg,Thomson reuters, BP“Statistical Review of World Energy”,資源エネルギー庁『エネルギー白書』,東京電力,財務省『貿易統計』、内閣府『四半期別GDP速報』,財務省『法人企業統計』,原油連盟,IEA “monthly electricity statistics”, IEEI『コロナ禍におけるによる内外石油市場への影響』,日本総研『原油価格下落の家計への影響』,第一生命『原油高が日本経済に及ぼす影響』 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2021 Apr.75コラム 経済トレンド 82連載経済 トレンド

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