ファイナンス 2021年4月号 No.665
60/94

実質GDP成長率の推移2020201920182017201620152014201320122011▲2.075.025.175.075.034.885.015.566.036.17▲6▲4▲20246810▲812(前年比、%)(年)(インドネシア統計局より著者作成)民間消費在庫政府消費総固定資本形成輸出輸入誤差漏洩GDP(4)雇用創出法案「オムニバス法」さて、先ほど触れたオムニバス法について。インドネシアは、その人口の多さなどから「可能性の国」と呼ばれていますが、豊富な労働人口を抱える割には製造業があまり伸びておらず、輸出が弱いという経済構造となっています。こうした中、2019年の米中貿易摩擦等を発端に中国から生産拠点を移す動きが出てきた頃、インドネシアはその移転先候補としてあまり名前が上がりませんでした。流石にこれには焦ったのか、その年の9月、ジョコ大統領*3は「中国企業33社が海外へ移転。そのうち23社がベトナムへ、10社がマレーシア、カンボジア、タイ。インドネシアはゼロ」「問題は我々にある」などと発言。これを受けて、世界でもトップレベルの複雑さ*4であったインドネシアの投資関連法案を一つにまとめる「オムニバス法」を制定、外資を積極的に呼び込むこととしました。オムニバス法は2020年11月20日に発効されましたが、この原稿を執筆している時点では詳細について未だ明らかになっていないものの、概ね外資に対する規制を緩めることで雇用を創出することを目的としているようです。例えば、当地の最低賃金上昇率は「実質GDP成長率+CPI」という式で機械的に決定されていますが、これでは毎年8%程度の賃金上昇を強制されることになります。いくらインドネシアが可能性の国であったとしてもこの賃金上昇に見合う生産性上昇を達成することは難しく、他のアジア新興国に投資*3) https://www.cnnindonesia.com/ekonomi/20190904155723-92-427496/jokowi-kecewa-33-pabrik-yang-hengkang-dari-china-tidak-ke-ri*4) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62942390R20C20A8FFN000/*5) Gojek、Grabなど。これ以外には、タクシー大手のbluebirdで利用できるDANAなどが挙げられる。先として劣後する理由の一つとなっています。オムニバス法では、この計算式を改めることとなっており、概ね3%程度の上昇率に落ち着くのではないかと言われています。この数字が妥当かどうかはともかくとして、企業に対する姿勢が変化したという点で、オムニバス法は一定の評価ができると思っています。(5)生活の変化最後は、当地任期中に起きた生活の変化について。日本に比べると、インドネシアは現在のところ社会を形作るシステムが整っていませんが、これには良い側面もあります。地下鉄開通はQOLが相当上昇しましたが、それ以外にも例えば電子マネー。日本は、今でこそPayPayやd払いなどといったキャッシュレス決済が伸びてきていますが、ネットを含む小売店で利用する以外、例えばタクシーを利用するような場合は、電子マネーが利用可能な車両とそうでない車両が混在していたりなど、現金を使わなくてはならない機会が多かったりしますので、結局現金決済を中心に据えたほうが何かと便利だったりします。他方インドネシアでは、電子マネー運営会社が配車サービスを提供*5しており、目的地までの料金が電子マネーで支払うことができるため、こうした「使えるかわからない」といった問題はほぼ皆無です。タクシーに限らず、電子マネー提供会社が出前や携帯電話料金の支払いなど、さまざまなサービスを提供しているため、ここ2年ほどは、(飲み会の精算がほぼ無くなったこともあり)ほとんど現金決済をしていません。こうした背景には、通貨の安定具合が影響しているのではないか、と考えています。日本の物価水準は長らくマイルドデフレが続いていたこともあって、ここ20年あまり変わっていませんが、インドネシアでは、1998年のアジア通貨貨危機以前は1ドル2,500ルピア程度だったのに対し、足元では14,500ルピア程度までインフレしていますし、ここ4、5年においても随分と為替が動いています。日本の最高額紙幣は1万円ですが、インドネシアは1999年からずっと10万56 ファイナンス 2021 Apr.連載海外 ウォッチャー

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る