ファイナンス 2021年4月号 No.665
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の成長戦略を倍増させ、より近代的で循環型の経済の構築は、経済の回復力を高めることに繋がる。これが、今回の危機から学ぶべきことである」とし、気候変動対応は景気回復及び将来の成長と切り離せるものではないと力強く述べた。その後、その言葉通り、欧州グリーンディールの取組みを新型コロナウイルス対応である欧州復興計画が強化・支援する枠組みの構築が表明されることとなった。4まとめわれわれの生活と経済を脅かす新型コロナウイルスの感染拡大は、政府にとっても企業にとっても緊急に対応すべき危機であることに間違いないが、それが気候変動対策に無策でいる理由とはならない。オーストリアのレオノーレ・ゲスラー(Leonore Gewessler)気候行動担当大臣は、「気候変動対策という目の前にある脅威に対しては経済対策の文脈の中で対応可能である」「この戦略プログラム(欧州グリーンディール)によって旧来の経済構造を再構築することで大きなイノベーションが促進される」と述べている*10。*10) CLIMATE HOME NEWS “Coronavirus response to delay EU Green Deal by weeks”(https://www.climatechangenews.com/2020/03/19/coronavirus-response-delay-eu-green-deal-weeks/)(2020年3月19日付)*11) 法の支配はEUの基本理念の一つであり、復興基金やMFFにおいて、法の支配に関する規定違反が認められた加盟国に対してはその執行が一時停止されることとなっている。実際に新型コロナウイルスからの復興計画としてのNGEU及びMFFにおいて多額の資金が気候変動対策に向けられ、経済復興と同時に持続可能な社会への移行達成が目指されている。当然、欧州財政の統合に向けては、各国の足並みを揃える必要があり、法の支配の問題*11、財源や調達の方法など、問題は数多く残る。また、平時復帰に向けてコロナ禍で乱れた欧州財政規律の見直しの議論をどのように進めていくのかといった問題とも関連してくる。気候変動対策への取組が世界中で加速する中、環境先進的な欧州の取組みは、他の国や地域の規範として今後も注目されるだろう。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。民間の資金をサステナブルな事業に誘導するためには、その事業がサステナブルであることを投資家に認識させる必要がある。このためEUでは何がサステナブルであるかを判断する基準として、「EUタクソノミー(EU taxonomy for sustainable activities)」の確立に向けて取り組んでいる。2020年6月、EUタクソノミー規則が欧州議会で採択された。この中で下記の表のとおり、6つの環境目標と4つの要件が規定され、これらを満たすものがサステナブルな経済活動となる。また、欧州委員会はEUタクソノミーの策定のため、2018年7月にサステナブルファイナンスに関するテクニカル専門家グループ(TEG)を設置し、欧州委員会はTEGの検討内容を踏まえてEUタクソノミーにおける6つの環境目標に適合する具体的な経済活動を示す委任法(Delegated acts)を策定することとしている。環境目標のうち、気候変動の緩和および気候変動への適応となる経済活動、それに係る技術スクリーニング基準等を定めた委任法は2022年1月から、残りの4つの環境目標に関する経済活動や技術スクリーニング基準等を定めた委任法は、2023年1月からの施行を予定している。6つの環境目標4つの要件1気候変動の緩和1一つ以上の環境目的に貢献2気候変動への適応2他の環境目的に著しい損害を与えない3水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全3最低限のセーフガードに準拠4循環経済・廃棄物抑制・リサイクル社会への移行4技術スクリーニング基準に準拠5汚染の防止と管理6健全なエコシステムの保全コラム EUタクソノミー(EU taxonomy for sustainable activities) ファイナンス 2021 Apr.51ヨーロッパにおける新型コロナウイルス感染症対策とグリーンディール SPOT

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