ファイナンス 2021年4月号 No.665
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(2) 「欧州グリーンディール投資計画 (European Green Deal Investment Plan)」本項では、欧州グリーンディールの政策を進めるにあたって必要となる資金に焦点をあて述べていくこととしたい。欧州グリーンディールで掲げられた2050年までの気候中立目標の達成に向け、欧州委員会は、2030年までに温室効果ガスを1990年比で40%削減するという中間目標を達成するためには年間2,600億ユーロ(約34兆円)の投資が必要になると見積もっており、官民双方からの継続的な投資が必要となる。その後、2020年12月11日の欧州理事会で、削減目標を55%に引き上げることに合意したことで、必要な投資額はさらに増加した。このような気候変動対策に必要な投資を確保するため、欧州委員会は2020年1月14日、欧州グリーンディールの資金供給メカニズムとなる「欧州グリーンディール投資計画(European Green Deal Investment Plan)」を発表した。この投資計画は、2021年から2030年までの10年間で、気候変動対策や環境対策に、官民合わせて少なくとも1兆ユーロ(約129兆円)を投じる計画であり、EUの予算及び「InvestEU*8」などの関連する手段を通じ、投資を促進するための効果的なインセンティブを付与することなどによって、持続可能な社会への移行のための資金を増やすものである。欧州グリーンディール投資計画と合わせ、その一部である「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism)」の基金設立規則案についても同日発表された。グリーン社会への移行によって最も影響を受ける化石燃料産業などに依存している国や地域への支援を目的としており、持続可能で気候中立的な経済社会への移行に必要な投資を生み出すためのものである。公正な移行メカニズムは「(1)公正な移行基金(Just Transition Fund)」「(2)InvestEUの公正な移行スキーム(InvestEU “Just Transition” scheme)」「(3)EIBを通じた公共部門のローンファシリティ*8) InvestEUは、EUの予算保証を使用し官民の投資を動員する投資基金「Invest EU Fund」と、投資プロジェクトに関するアドバイスを行う「Invest EU Advisory Hub」、投資家とプロジェクトをマッチングするデータベース「Invest EU Portal」からなる、イノベーションの促進や雇用の創出を目的とする投資戦略である。*9) 例えば、チェコのバビシュ(Andrej Babiš)首相は、2020年3月16日に「ヨーロッパは世界の中でコロナウイルスの最大の震源地となっている」「今はグリーンディールのことは忘れ、コロナウイルス対策に焦点を当てるべきだ」と述べている(Euractivホームページ:https://www.euractiv.com/section/energy-environment/news/czech-pm-urges-eu-to-ditch-green-deal-amid-virus/)(2020年3月17日付)。(EIB public sector loan facility)」の3つの柱を通じ、2021年から2027年の間に少なくとも1000億ユーロ(約13兆円)の投資を生み出すとしている。具体的には、(1)では、EU予算からの拠出をもとに、雇用創出を見据えた新規事業の立ち上げや中小企業支援、労働者の教育、環境に優しいエネルギーへの投資支援などを行う。(2)では、投資戦略であるInvest EUの予算を元に民間からの投資を呼び込む。(3)では、地域熱供給ネットワークの整備や建物改修の支援を行うこととしている。(3) 新型コロナウイルス感染拡大による欧州グリーンディールへの影響新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、グリーンディールを一時中断し、まずは目の前の危機に全力で対応すべきとの意見*9も見られるようになった。実際、グリーンディールの一環である、EU市民の気候変動対策の意見等の共有を目的とするイニシアチブ「欧州気候協約」の開始が2020年第3四半期中から2020年12月の開始になるなど、いくつかの取組みに遅れが生じている。Colli(2020)は、パンデミックによる不確実性の高まりとメディアの注目度の変化により、各国政府はパンデミック以前に存在していた気候変動対応に対する国民の問題意識と支持による後押しは受けられない可能性があると指摘した。また、Colli(2020)は、非常の景気後退は気候変動対策に2つのリスクをもたらすと述べている。多額の公的資金が失業給付や企業への助成金等に投入され、グリーン社会への移行等を実現するための必要な支出を危険にさらすリスクと、政府や企業が景気後退を口実に環境規制を撤廃したり、環境施策の実施を遅らせたりするリスクである。実際にドイツでは、自動車工業会が自動車の温室効果ガス排出規制の強化の撤回を求めた。しかし、新型コロナウイルスによる混乱が続く2020年4月に、フォン・デア・ライエン欧州委員長は、「欧州グリーンディールに投資することは、我々50 ファイナンス 2021 Apr.SPOT

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