ファイナンス 2021年4月号 No.665
46/94

週間で一人当たり1000ペソ(約2000円、5人家族なら約1万円)の当座の生活資金と併せて生活必需品のセットを避難所で暮らす人々に届けることができた。さらに、4人の火災孤児が安全に暮らせる家を探し、火災から約1カ月後、子供たちは無事、避難所から新しい家に引っ越すことができた。家の購入費は改修費と併せて35万ペソ(約70万円)。孤児たちの家を選ぶ際にボナがこだわったのは、自治体が発行した資産証明番号が付いていることだった。他の途上国の都市部に広がるスラムと同様、BASECOの土地も基本的には政府の所有物であり、そこで暮らす人々は、事実上、その場を占有しているにすぎない。従って、政府が公共事業等をその土地で実施すると決めた場合には、突然、立ち退きを命じられるリスクがある。しかし、家の入口に自治体が発行した資産番号がついていれば、政府公認の資産として所有権が認められ、仮に今後、立ち退きの必要が出た場合も資産額に見合う補償金を受け取ることができる。7危機対応から未来への投資のフェーズへ4人の火災孤児たちが、自律し、自立していくためには教育が不可欠だ。「何とかしてこの子たちに質の高い教育の機会を届けたい」、「誰か家庭教師を引き受けてくれないだろうか」―。そんな思いで探し回った末に出会ったのが、ランディ先生だった。BASECOで育ち、今年35歳になるランディ先生は、現在、マニラのGolden Success Collegeで17歳から18歳を対象にビジネス・マネジメントやマーケティングを教えつつ、空き時間を利用して、経済的に恵まれないBASECOの子どもたちに補修授業を行う家庭教師のネットワークを作っている熱血漢だ。孤児たちへの家庭教師を快諾してくれたランディ先生は、しばらくしてこんなことを語ってくれた。「コロナの影響で今年の新学期は通常より2か月遅れて10月から始まるが、対面での授業は当面期待できない。公立学校では、保護者を週に一度学校に呼び、科目ごとに宿題を配布しては回収、添削し、また次の宿題を出す、というやり方で指導を続けようとしている。マニラ市も各家庭にタブレットを無料で貸与し、オンライン授業の環境整備を支援している。」「しかし、BASECOでネット環境がある家庭はごくわずかだし、宿題だけもらっても、教える人や監督する人がいなければ、子供たちは勉強に身が入らず、知識も身につかない。こんな状況を、BASECOの若者たちの手で変えていけないだろうか…。」それは、いわば「BASECO版寺子屋イニシアティブ」を立ち上げたいという提案だった。ランディ先生は、成績が優秀で地元愛の強い大学生や社会人10人を「寺子屋」の講師として集め、火災で被害を受けた家庭や、経済的に厳しい家庭に寺子屋の開始を知らせて回った。さらに、教会や民家と交渉し、少人数の授業を開けるスペースを10カ所以上確保した。約2週間の準備期間を経て、「BASECO版寺子屋イニシアティブ」は10月3日にスタートした。以来、今日に至るまで、クリスマス・年始の休暇を除き、土曜と日曜の午前と午後に2時間ずつ、計4回開かれるクラスには、小学校1年生(Class1)から中学4年生(Class10)まで各学年7~8人ずつ、合計で約320人の子供たちが集い、基礎的な学習機会と定期的な学習習慣を手にしている。ノートや鉛筆がない子どもたちには、義援金からノートとペンを配布したほか、授業避難所から新居へと移った4人の火災孤児たち42 ファイナンス 2021 Apr.SPOT

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る