ファイナンス 2021年4月号 No.665
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1. 令和3年度農林水産関係予算の基本的考え方(1) 大規模経営体の生産性・収益性向上へ向けた課題への対応我が国では、2020年実績で9,223億円の農林水産物・食品の輸出額を2030年までに5兆円とする意欲的な目標(輸出5兆円目標)を掲げ、農業の成長産業化に向けた農政改革を展開している。こうした中で、農業経営の規模拡大の進展等を背景に、この10年間で主業農家*1の農業所得は約6割増加した(資料1参照)。一方で、今後の農業の成長産業化を担うべき大規模経営体の状況を見ると、その収益性や生産性は必ずしも十分なものとはいえず、輸出拡大を見据えた高*1) 「主業農家」とは、農業所得が主(経営所得の50%以上が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家をいう。収益作物への転換等を進める必要がある。経営規模別の農業粗収益と農業経営費(水田作経営)を見ると、単位面積当たりの農業粗収益が規模拡大につれて低減する一方で、農業粗収益に占める補助金の割合が規模拡大につれて増加する傾向にある。また、経営規模が大きくなるにつれて単位面積当たりの農業経営費が低減するが、一定規模(15ha)を超えると低減しにくい状況にある(資料2参照)。単位面積当たりの農業粗収益が規模拡大につれて低減する背景として、水田の転作地の大半が、収益性が低く補助金交付の多い転作作物に充てられ、交付対象面積は大規模経営体が大きな割合を占めることが挙げられる(資料3参照)。こうした転作農地を大規模経営体の経営能力を活かした輸出基盤に生まれ変わらせることが、輸出5兆円目標の達成に向けて重要である。そのため、令和2年度第3次補正予算(新市場開拓に向けた水田リノベーション事業等:350億円)により、輸出5兆円目標を見据え、輸出・実需ニーズに対応(生産者と実需の販売契約を含むプランを作成)した輸出用米や高収益作物等の生産拡大に向け、生産者の低コスト生産技術等の導入支援と、実需の製造機械・施設整備支援を実施することとしている。また、一定規模を超えると単位面積当たりの農業経営費が低減しにくい背景として、1経営体当たりの耕地面積が増加(集積)しても、農地が分散してまとまっておらず、「集約」が進んでいないことが挙げられる。平成26年の農地バンク創設以降、農地の集積は一定程度進んできたが、今後は農地の集約度をさらに高めることが重要である。そのため、令和3年度予算令和3年度 農林水産関係予算について主計局主計官 波戸本 尚資料1 農業経営の動向H20H25H30主業農家戸数(万戸)36.532.525.2〔▲31%〕主業農家経営耕地面積(ha)5.16.17.0〔+37%〕農業経営の動向1394205056620100200300400500600700H20H25H30(337)(321)主業農家の農業所得の推移(万円)(出所)農林水産省「農業経営統計調査経営形態別経営統計(個別経営)」、「農業構造動態調査」(参考)給与所得者の平均給与(出典:民間給与実態統計調査)H20:430万円→H30:441万円〔+3%〕※1グラフ中の()の数値は農業所得のうち共済・補助金等受取金を除いたものである。※2〔〕の数値はH20の数値との比較である。(498)〔+55%〕農業所得〔+58%〕 ファイナンス 2021 Apr.15令和3年度予算特集:3特 集

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