ファイナンス 2021年3月号 No.664
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こでは10年国債を1億円保有していた場合の1日の最大損失額(VaR)を過去5年のデータを用い、99%信頼区間で考えます。この場合、λ=2.33、T=1となりますが、ϕ'Σϕは10年ゾーンに焦点を当てれば、これは「10年国債のBPV(DV01)×金利変化のボラティリティ(σ)」(=「10年国債の保有額×価格変化率のボラティリティ」)*23と解釈できます。例えば、過去5年のデータを用いて、金利変化のボラティリティ(イールド・ボラティリティ)を計算した場合、5bpsであるとしましょう(この値は過去5年の経験則でいえば68%のデータについて(1営業日で)-5bpから+5bpのレンジで動いていたと解釈できますが*24、その理由は服部(2020b)を参照)。10年国債のデュレーションを簡易的に10とすると、BPVは1bps×10×1億円=100,000円と計算できるため、10年国債を1億円保有した場合のVaRは「2.33×BPV×σ=2.33×100,000×5=1,1650,000円」と計算できます*25。分散共分散法では、このように金利変化に対する感応度を用いるのですが、この金利の変化については微小な変化のみを考え、金利変化の非線形的な関係(いわゆるコンベクシティ)については考慮しません。分散共分散法はデルタ法と呼ばれることもありますが、これはデルタと呼ばれる線形の関係のみ考慮しているからです*26(コンベクシティの詳細は服部(2020d)を参照してください)。4.3 その他の注意点本節では分散共分散法に基づき説明をしました。メガバンクなどはヒストリカル法を用いているものの*27、筆者の理解する限り多くの金融機関は分散共分散法を今でも用いています*28。正規分布などの仮定が強いと思われる方もいるかもしれませんが、前述のとおり、その他のリスク管理の手法を併用する形でリスク管理を行っています。VaRに限界がある点を指摘しましたが、実際のデータを用いてVaRが正しいリスク量を計算しているかの検証もなされています(これをバックテスティン*23) ϕ'Σϕはいわば(1変数の場合)分散をGPS(ϕ)で挟み込んでおり、これは二乗を意味していますが、ルートがとられているため、GPS×標準偏差になります(ここでは10年国債だけ考えているので10年のGPSをBPVと解釈しています)。*24) ここでの解釈は金利変化が正規分布に従うと想定しています。*25) ここでは1変数の事例を上げましたが、2変数の事例に関心がある方はFFR+(2010)や青沼・村内(2009)などを参照してください。*26) デルタとはもともとオプションに関する概念ですが、債券を金利に関するデリバティブとみなせば、金利の微小の変化に関する価格変化はデルタそのものです。服部(2020c)ではDV01やBPVをデルタと呼ぶこともあり、デュレーションなどと同様に線形の金利リスクを捉える概念として説明しました。*27) 三菱東京UFJ銀行(2012)ではヒストリカル法に基づいた場合も、GPSを用いてVaRを計算する計算方法が紹介されており、分散共分散法以外の方法でVaRを算出する際にもGPSの知識が必要であることが確認できます。*28) どのような手法を用いているかは金融機関のディスクロージャー誌等で開示されています。グといいます)。また、高度な数学を用いるリスク管理を行うことは理想的かもしれませんが、その一方でどのような計算をしているかの直観が得られなくなるという副作用がある点も見逃してはならないでしょう。ここでは分散共分散法について簡易的に説明しましたが、同手法の詳細を知りたい読者や、ヒストリカル法やモンテカルロ法の概要を把握したい場合は、FFR+(2010)や青沼・村内(2009)などを参照していただければ幸いです。5.おわりに本稿では3回にわたり金利リスクの基礎について解説しました。次回はバーゼル規制における金利リスク規制である銀行勘定の金利リスクについて取り上げることを予定しています。参考文献[1]. 青沼君明・村内佳子(2009)「Excel & VBAで学ぶVaR」金融財政事情研究会[2]. 鎌田康一郎・倉知善行(2012)「国債金利の変動が金融・経済に及ぼす影響―金融マクロ計量モデルによる分析―」RIETI Discussion Paper Series 12-J-021[3]. 日本銀行金融機構局、金融庁総合政策局・監督局(2020)「共通シナリオに基づく一斉ストレステスト」『日銀レビュー』2020-J-13[4]. 服部孝洋(2020a)「日本国債先物入門:基礎編」ファイナンス1月号、60–74.[5]. 服部孝洋(2020b)「国債先物オプション入門―オプション市場からみた金利リスクについて―」ファイナンス4月号、38–42.[6]. 服部孝洋(2020c)「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」ファイナンス10月号、54–65.[7]. 服部孝洋(2020d)「コンベクシティ入門―日本国債における価格と金利の非線形性―」ファイナンス12月号、66–75.[8]. 服部孝洋(2021)「コスト・アット・リスク(Cost at Risk, CaR)分析入門」財務総研スタッフ・レポート[9]. 藤井健司(2016)「増補版 金融リスク管理を変えた10大事件+X」きんざい[10]. 三菱東京UFJ銀行(2012)「国債のすべて―その実像と最新ALMによるリスクマネジメント」きんざい[11]. ブルース・タックマン(2012)「債券分析の理論と実践(改訂版)」東洋経済新報社[12]. ハル(2008)「フィナンシャルリスクマネジメント」ピアソンエデュケーション[13]. FFR+(2010)「リスク計量化入門―VaRの理解と検証」金融財政事情研究会88 ファイナンス 2021 Mar.シリーズ 日本経済を考える 110連載日本経済を 考える

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