ファイナンス 2021年3月号 No.664
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タックされているイメージになります。本稿ではもっぱら国債にフォーカスして話を進めていますが、実務におけるVaRの計算に当たっては、多数の資産を統合的に管理するため、ϕには為替や株式などのリスク量も含められますから、VaRを説明するテキストなどではϕをGPSではなく、リスク・ファクターなどと呼ぶことが少なくありません*21。Σは各年限の分散共分散行列です。フォーマルには下記のように表示されますが、1年金利の変化の分散、2年金利の変化の分散などが行列の対角線上に入っており、1年金利の変化と2年金利の変化の共分散などが対角線以外の部分にスタックされているイメージになります(実際のVaRの計算では国債以外の資産の分散および共分散もこの行列に含まれます)。Σ=(Var(x1)Cov(x1,x2)…Cov(x1,xn)Cov(x2,x1)Var(x2)…………Cov(xn,x1)Cov(xn,x2)…Var(xn))VaRを算出する場合、分散共分散行列は、標準偏差と相関係数を明示的に表現し、下記のように表示されることも少なくありません*22。Σ=(σ12ρ12σ1σ2…ρ1nσ1σnρ21σ2σ1σ22…………ρn1σnσ1ρn2σnσ2…σn2)σiはある資産iの標準偏差です(例えば、1年債の金利変化で算出された標準偏差です)。ρijは資産iおよびjの相関係数になります(例えば、1年債の金利変化と2年債の金利変化の相関係数です)。上記を考えれば、各資産の標準偏差と相関係数に加え、保有している資産のGPSが得られれば式(1)を用いることにより、ポートフォリオ全体のVaRを算出することができます。保有期間や信頼区間を変化させたい場合はTやλを動かすだけで済みます。また、金融機関がある有価証券に追加投資する際、そのGPS*21) 例えば、三菱東京UFJ銀行(2012)ではϕについて「各リスクファクターのセンシティビティのベクトル(国債の場合はグリッドポイントセンシティビティ)」(p.390)と記載しています。他の書籍でも同様の表現が使われています。*22) この式はさらにΣ=(σ10…00σ2…………00…σn)(1ρ12…ρ1nρ211…………ρn1ρn2…1)(σ10…00σ2…………00…σn)と記載することもできます。をみることでその債券が有する単体のリスク量だけでなく、VaRに対するインパクトを考慮することもできます。ただし、このように簡易的に計算できる理由は、前述のとおり、各リスク・ファクターが正規分布に従うなどの仮定がある点に注意が必要です。4.2 GPSを用いる理由注意すべき点は、ϕ=(x1,x2,…,xn)におけるx1は1年国債の保有額ではなく、GPSになっている点です。この理由は、ここでの分散共分散行列(Σ)が国債の「価格変化率」の分散共分散行列ではなく、国債の「金利変化」の分散共分散行列になっているからです。分散共分散行列(Σ)に国債の「価格変化率」の分散や共分散が含まれていた場合、ϕを国債の保有額とし、Σを国債の「価格変化率」をベースとした分散共分散行列を用いてVaRを計算することができます(「国債の保有額×価格変化率のボラティリティ」というイメージでリスク量を算出できます)。しかし、実務的には分散共分散行列を計算する際は、「価格変化率」でなく、「金利変化」の分散や共分散を用います。服部(2020c)で強調しましたが、国債の価格変化率は金利変化のデュレーション倍変化しますから、実際の損益を計算するには、金利変化に感応度(デュレーション)を掛け合わせることで価格変化に直す必要があります。さらに、「価格変化率」を実際の損益の金額に直すため、国債の保有額を加味することで「価格変化額」を把握することができますが、GPSは前述のとおり、DV01などと同様、「価格変化額」を表しますから、GPSを分散共分散行列に掛け合わせることでVaRを算出するわけです。そもそも分散共分散行列を計算する際、金利変化を用いて計算しているため、このような感応度の調整が必要になるわけですが、その理由は、債券は金利をベースに議論をするため、金利変化の分散や共分散を計算した方が商慣行に合っているし、ボラティリティや相関係数などの解釈がしやすいことが一因です。ここで、1変数の場合の計算例を考えてみましょう。こ ファイナンス 2021 Mar.87シリーズ 日本経済を考える 110連載日本経済を 考える

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