ファイナンス 2021年3月号 No.664
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3.2 VaRとGPSの関係冒頭でVaRとGPSが密接な関係を有することを指摘しましたが、その理由として、保有する有価証券について、それぞれの有価証券をGPSに分解したうえで、それを集約する形でVaRを算出することが少なくないことが挙げられます。金融機関が多数の有価証券を保有している場合、その一つ一つのボラティリティや相関関係を推定するには膨大な手間がかかりますが、正規分布に基づく分散共分散法と呼ばれる手法を用いれば、例えば国債ポートフォリオのリスク量をGPSに落とし込み、GPSで想定するグリッド・ポイントごとの相関関係とボラティリティを用いることで、VaRを算出することができます。現在の実務では、過去のデータを用い、分散と共分散を推定したうえで、それを正規分布に当てはめることでVaRを計算することが少なくありません*16。その一方で、正規分布に基づかないVaRの算出方法もあります。例えば、ヒストリカル法のように過去のデータをそのまま用いてリスク量を推定したり、モンテカルロ法のように乱数を発生させて、シミュレーションをすることでVaRを算出することもあります。バーゼル規制では銀行勘定の金利リスクの算出が求められていますが、そこではヒストリカル法のようなイメージで金利リスクの算出が求められていました*17。債務管理当局はコスト・アット・リスク(Cost at Risk, CaR)と呼ばれる手法でリファイナンス・リスク(借換リスク)を定量的に計測していますが、(シミュレーションに基づく)モンテカルロ法に近いアイデアでリスク量を算出しています(コスト・アット・リスクについては服部(2021)を参照してください)。4.数式を用いたVaRとGPSの関係*184.1 分散共分散法の概要最後に、分散共分散法を用いてVaRを算出した場合、VaRとGPSがどのような関係を有するかを数式で確認*16) 金利と正規分布の関係については服部(2020b)やそれ以降のオプションに係る筆者の論文で詳細に言及しているため、そちらをご一読いただければ幸いです。*17) バーゼル2における「アウトライヤー規制」では99%タイル値の計算が求められていましたが、2018年3月期から国際統一基準行に適用が開始された銀行勘定の金利リスクに対する規制(いわゆるIRRBB, Interest Rate Risk in the Banking Book)では金利リスクを把握するうえで99%タイル値は用いられておらず、「パラレル上・下、スティープ、フラット、短期上・下」という6つのシナリオが用いられています。*18) この部分を記載するにあたり、藤原哉氏、毛利浩明氏のサポートを得ました。記して感謝申し上げます。*19) エクセルのNORM.S.INV関数(標準正規分布の累積分布関数の逆関数)を使えば簡易的に計算できます。例えば、信頼区間99%についてはNORM.S.INV(0.99)≒2.33という形で算出できます。*20) 例えば読者が一定量の国債を保有していたとします。その際、99%の信頼区間でみたVaRが100万円の場合、その国債の保有に係る損益は99%の確率で100万円の範囲に収まることを意味しています。します。分散共分散法とは、(1)金利変化が正規分布に従って変動すること、(2)金利変化に対する価格感応度が一定(線形)という仮定を置き、VaRの算出する方法です。分散共分散法と呼ばれる理由は、正規分布を用いることで、金利の変化などに関する分散と共分散に基づき、VaRを算出することができるためです。ここから具体的に考えていきますが、分散共分散法では、VaRは下記の式に基づき算出されます。VaR=λTϕ'Σϕ(1)λはVaRのパーセンタイル値に対応する掛け目で、信頼区間99%の場合、λ=2.33となります(この掛け目を変えることで95%や99.9%の信頼区間でみたVaRも計算できます*19)。信頼区間の概念については統計学のテキストや服部(2020b)を参照していただきたいですが、信頼区間99%でVaRを算出した場合、ポートフォリオの損益がVaRの範囲に99%の確率で収まることを示しています*20。一方、Tはどれくらいの期間にわたる損失を考慮しているかを示しており、実務ではしばしば「保有期間」と呼ばれます。実務的には、営業日ベースで金利データを取得し、金利変化の系列を作り、そこから1営業日の標準偏差を算出することが多いことから、例えばT=1であれば1営業日でのVaRを表すし、T=10であれば10営業日でのVaRと解釈することができます。本稿はGPSに着目していますが、式(1)におけるϕがGPSになります。ϕ=(x1,x2,…,xn)'ここではベクトルという形で抽象的に表現されていますが、例えば、x1は1年金利が1bp動いた時の価格変化額、x2は2年金利が1bp動いた時の価格変化額という形でグリッド・ポイントごとの価格変化額(GPS)がϕにス86 ファイナンス 2021 Mar.連載日本経済を 考える

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