ファイナンス 2021年3月号 No.664
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という言葉を使います。スティープとは、イールドカーブの傾きが急になることを表現する一方、フラットとはイールドカーブの傾きが平らになる動きを表現しています。もっとも、例えばイールドカーブの傾きが急になる(スティープになる)場合でも、短期ゾーンの金利が低下して急になるケースもあれば、長期金利の金利が上昇して急になるケースもあります。前者は国債が買われて(価格が上がり、金利が低下することで)スティープになるため、ブル・スティープと呼ぶ一方、後者は国債が売られて(価格が下がり、金利が上昇することで)スティープになるため、ベア・スティープといいます。ブルやベアはそれぞれ価格が上昇・下落することを表す金融業界の専門用語(ジャーゴン)です。一方、フラットになる場合は、同様のロジックで、ブル・フラットとベア・フラットという表現が用いられます。図4がこれらのカーブの動きをまとめています。図4 各種金利上昇のシナリオブル・スティープベア・スティープ金利金利年限年限ブル・フラットベア・フラット金利金利年限年限ベア・スティープやブル・フラットなどの表現は債券の初学者が当初は混乱しますが、債券市場の*11) ちなみに、ヘッジをしないでロングすることを明示的に表現するため、実務家はしばしば「アウトライトで買う(ロングする)」と表現することがあります。*12) パーセンタイル値とは、金利上昇を悪いシナリオとすれば、悪いシナリオから数えて1%番目の「金利上昇」を金利リスク量という形でリスク量を算出する方法です。実際には、悪いシナリオからでなく、良いシナリオから99%番目(=悪いシナリオから1%番目と同じ)である99%タイル値を用います。実務家はあまりに自然にこの表現を用いてカーブの動きを表現するため、債券市場に係る者はこの表現に慣れる必要があります。筆者も当初混乱しましたが、毎日使う中で、これらの用語とカーブの動きが自動的に頭に入るようになりました(円債市場の実務家は皆このカーブの動きと用語が頭の中に叩き込まれています)。これらの用語とカーブの動きを暗記してしまい、金利の動きを表現するうえで、積極的に活用してこれらの用語に慣れることが一案ですが、筆者の場合、ブルは債券が買われる(金利が下がる)、ベアは債券が売られる(金利が下がる)という意味をまずは頭に入れ、スティープに動くか、フラットになるかをイメージしています。なお、カーブがフラットになることで利益が上がるポジションをフラットナー(flattener)、カーブがスティープになることで利益が上がるポジションをスティープナー(steepener)といいます。本稿で、JGBトレーダーが超長期国債を在庫として保有する一方、先物をショートすることでヘッジするケースを取り上げましたが、これはカーブがフラットになることで収益が上がるため、フラットナーのポジションです。一方、超長期国債をショートし、先物をロングすることでヘッジした場合、スティープナーのポジションといえます*11。3. GPSとVaRとの関係3.1  VaRとはGPSはVaRとも密接な関係を有しています。VaRとは、実際の資産価格や金利の動きに基づき、リスク量を算出する指標です。たとえば10年国債のリスク量を算出する場合、デュレーションでは約10という金利感応度を用いますが、VaRの場合は、10年国債の利回りの過去の動きに基づき、リスク量を算出します。例えば、過去5年のデータを取得して、金利変化を計算し、そこから標準偏差やパーセンタイル値*12を計算することでリスク量を算出します。84 ファイナンス 2021 Mar.連載日本経済を 考える

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