ファイナンス 2021年3月号 No.664
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るBPVおよび各GPSの上限値(もしくは、レンジ)を定める。ALM部門は、その範囲内で国債操作を行うことが機動的な国債保有戦略(Tactics)の基本となる」(p.389)とコメントしています。ちなみに、三菱東京UFJ銀行(2012)には各投資家が有する日本国債のGPSが示されていますが、(この書籍が出版された時点が2012年である点に注意が必要ですが)同分析では、生損保等の10年超のセンシティビティが大きい一方、5年以内については銀行のリスク量が大きいことを指摘しています。2.3 GPSのフォーマルな定義最後にGPSのフォーマルな定義を確認しておきます。ここで国債の価格が様々な金利に依存することを表現するため、国債の価格を下記のような金利の関数で表現します。P(r1,r2,…,rn)これは国債の価格(P)が1年金利(r1)からn年金利(rn)に依存することを表しています。i年の国債の金利が1bps上昇した場合、その価格をP(r1,r2,…,ri+1bps,…,rn)と表現すれば、GPSとは前述のように特定の年限の金利(ri)が1bpsだけ上昇したときの価格の変化額ですから、GPSは下記のように定義できます。GPS=P(r1,r2,…,ri+1bps,…,rn)-P(r1,r2,…,ri,…,rn)次に、なぜGPSが元本の償還のある年限に大きく出るかを考えます。まず、10年国債の価格が将来のキャッシュフローの割引現在価値で決まるとします。10年国債を保有することで将来発生するキャッシュフローは期中のクーポン(c)と満期の元本の支払い(100円)であると考えると、(クーポンが年1回の支払いと簡略化すると)下記のようにキャッシュフローを割り引く形で価格が決まっているとします。*9) 服部(2020c,d)では価格を下記のように定義しました。 P=c(1+r)+c(1+r)2+…+c+100(1+r)10 この場合、rを最終利回り(yield to maturity)といいます(単に利回りといった場合、この金利を指します)。服部(2020c)ではrで微分することでデュレーションを算出しましたが、上記の定式化でrで微分することはカーブ全体を平行移動することを意味しています。スポット・レート(ゼロ・クーポン・イールド)と最終利回りの違いについてタックマン(2012)では最終利回りを「全てのスポット・レートを1つの数値に集約したもの」(p.48)と説明していますが、詳細は同書の2-3章を参照してください。*10) この金利は割引債の利回りに相当します。P=c(1+r1)+c(1+r2)2+…+c+100(1+r10)10注意してほしい点は、服部(2020c,d)でも国債のキャッシュフローの割引現在価値を計算しましたが、そこではr1,r2,…,r10という形で年限ごとに異なる金利で割り引いておらず、一つの金利(r)で割り引いていた点です*9。ここでは特定の年限の金利を上げるという思考実験をしたいため、1年目のクーポンcにはr1、2年目のクーポンcにはr2という形で、年限に対応させた金利を用いて割り引いています(このような金利をスポットレート(ゼロ・クーポン・イールド)*10といいます)。この場合、10年国債は、10年金利(r10)が動いた時の影響は大きいものの、1年など10年以外の金利が動いても、そもそも分子のキャッシュフローが小さいことから、その価格への影響が小さいことがわかります。ちなみに、DV01(BPV)はすべての年限の金利が1bps上昇した場合(パラレルシフトした場合)でしたから、下記のように表現できます。DV01(BPV)=P(r1+1bps,r2+1bps,…,ri+1bps,…,rn+1bps)-P(r1,r2,…,ri,…,rn)前述のように各グリッド・ポイントごとのGPSの合計がDV01(BPV)になりますから、i年のGPSをGPSiとすると、下記が成立します。DV01(BPV)=∑iGPSiBOX 1 イールドカーブのスティープとフラット本稿で強調したように、イールドカーブは実際にはパラレルに動くわけではなく、短期金利や長期金利で異なる動きをすることが少なくありません。実務家はイールドカーブがどのように動いたかを表現するため、「スティープ」と「フラット」 ファイナンス 2021 Mar.83シリーズ 日本経済を考える 110連載日本経済を 考える

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