ファイナンス 2021年3月号 No.664
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ルドカーブがパラレルに変化したときの「価格の変化額」であると説明しました。その意味で、GPSはデュレーションより、DV01やBPVに近い概念と解釈できます。このように、イールドカーブを一定年限(グリッド・ポイント)ごとに区分し、例えば5年金利のみを上昇させた時の価格の変化がGPSですが、5年金利だけでなく、例えば1年金利、2年金利、…、40年金利のみの金利上昇という形で様々な年限の金利の変化からGPSを算出することができます*3。1年~40年のGPSを合計することは、1年から40年までの金利が上昇したときのリスク量を意味しますから、これはイールドカーブをパラレルにシフトさせたことと同じ意味を有します。そのため、各年限のGPSの合計はDV01(BPV)と一致します。注意すべき点は、海外の文献などではGPSという表現は用いず、キー・レート・デュレーション(Key Rate Duration, KRD)やキー・レート・リスク(Key Rate Risk,KRR)という表現が用いられる傾向がある点です*4。KRDとは特定の年限の金利(キー・レート)が変化したときのデュレーション(感応度)を意味しますが、例えばタックマン(2012)やBloombergなどではGPSという表現ではなく、KRDという表現が用いられています*5。筆者の印象では、日本の金融機関ではGPSという言葉が普及していますが、海外の金融機関ではKRDという表現の方が広く使われています。GPSは、グリッド・ポイントごとの感応度(センシティビティ)という意味ですから、GPSの方が(金利だけにとどまらない)広い概念と解釈することもできますが、海外における債券のリスク管理や文献を見るときには一定の注意が必要です。2.2 GPSの使用例日本国債のGPSここからGPSを用いた事例をみておきましょう。図2は2年、5年、10年国債のGPSを示しています。これは特定の年限の金利だけが1bps上昇した場合、各国債を保有していたとしたら、どれくらいの損失を抱えるかを示しています。図2の右側の10年国債をみると、1年*3) ここで40年まで考えている理由は日本国債が40年債まで発行されているからです。他国では40年より長い年限の国債が発行されているケースがありますが、その場合は40年以上の年限の金利を動かすことができます。*4) タックマン(2012)では第7章でキー・レート・デュレーションについて取り上げています。*5) キー・レート・デュレーションはデュレーションに立脚した概念であるため、キー・レートが動いた時の「価格の変化率」を表現しますが、キー・レートが動いた時の「価格の変化額」についてはKR01(キー・レートが変化したときのDV01に相当する概念です)という表現が用いられます。*6) この部分を記載するにあたり、後藤勇人氏のサポートを得ました。記して感謝申し上げます。から9年のGPSは0.1~1といった小さい値をとっている一方、10年のGPSは8.856をとっています。これは10年国債をロングしていた場合、たとえ、1-9年までの金利が上昇したとしても、10年金利が変化しなければそれほど損失がないことを意味します。一方、(1年から9年金利は横ばいで)10年金利のみが上昇した場合は(100円に対して)8.856銭の損失を計上することがわかります。これは10年国債のデュレーションが10程度であることを考えると、金利が1bpsパラレルシフトした場合とかなり近い損失であることがわかります。図2 日本国債のGPSの事例2年国債5年国債10年国債1年0.1360.0020.0012年1.7930.0040.0013年00.0070.0024年00.5050.0035年04.3730.0036年000.0047年000.0058年000.0059年001.01710年008.856合計1.9294.8919.897注:Bloombergが算出するKRDに基づいています。このような傾向はその他の年限の国債についても言えます。例えば5年国債については5年金利が上昇したとき、5年債のデュレーションが想定する損失に近い損失が発生しますが、それ以外の年限が動いても損失はほとんど発生しません。この背景には、満期には利払だけでなく元本の支払いがあるからですが、その詳細は後述します。日本国債のマーケット・メイクと入札の事例*6より実際的な事例を考えるため、次のようなケースを考えてみましょう。例えば日本国債のマーケット・メイクをするJGBトレーダーが短期ゾーンでショートのポジションを作る一方、長期のゾーンでロングのポジションを作っており、合計の金利リスク量(DV01、BPV)はゼロになっていたとしましょう。この場合、イールドカーブがパラレルに上昇した場合、長期のポジションで損失が生まれますが、短期の ファイナンス 2021 Mar.81シリーズ 日本経済を考える 110連載日本経済を 考える

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