ファイナンス 2021年3月号 No.664
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.htmlグリッド・ポイント・センシティビティ入門―日本国債およびバリュー・アット・リスクの観点で―*1東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1101.はじめに*1「金利リスク入門」および「コンベクシティ入門」(服部(2020c,d))では、デュレーションやコンベクシティなど金利リスクの基礎的な概念について解説を行いました。デュレーションでは1年から40年におけるすべての金利が同じように変化(イールドカーブがパラレルシフト)することが前提でしたが、実際にはパラレルにシフトするとは限らず、例えば、超長期国債の金利が上昇するなど特定の年限の金利のみが動くことも少なくありません。このようなパラレルに動かない金利の動きを捉えるため、リスク管理の現場ではグリッド・ポイント・センシティビティ(Grid Point Sensitivity, GPS)が用いられています。GPSは金融機関のリスク管理の実務において広く活用されていますが、規制当局が金融機関の有する金利リスクを測る指標としても用いられています*2。GPSは実務的には、バリュー・アット・リスク(Value at Risk, VaR)の計算に用いられる点も看過できません。そこで、本稿では円債にフォーカスしてGPSの概念を紹介するとともに、VaRとGPSの関係についても説明します。2. GPS2.1  GPSとは前述のとおり、デュレーションではカーブのパラレルシフトが想定されていましたが、実際には金利はパラレルに動くとは限らず、例えば超長期金利など特定*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 例えば金融庁の「市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」における市場リスク計測方法の中にもGPSは指摘されています。の年限の金利が動くことが少なくありません。そのため、特定の年限の金利が上昇した場合の損失額を把握することも有益です。これはイールドカーブに対して、年限ごとにグリッド・ポイントを設けて金利変動に係るリスク量を把握することから、グリッド・ポイント・センシティビティといいます。服部(2020c)で説明したとおり、デュレーションの場合、図1の左図のような金利上昇を想定しています。一方、GPSは、図1の右図のように、ある特定のグリッド・ポイント、例えば、5年金利のみ上昇した場合のリスク量を指します。図1  デュレーションとグリッド・ポイント・センシティビティが想定する金利上昇金利年限パラレルに金利上昇イールドカーブ金利年限特定の年限だけ上昇<デュレーション><グリッド・ポイント・センシティビティ>GPSはグリッド・ポイント・センシティビティですから、「センシティビティ」であるがゆえ、特定の金利が変化したときの変化「率」という印象を持つかもしれません。もっとも、実務的には特定の金利が変化した場合の価格の変化「額」としてGPSが使われる点に注意が必要です。服部(2020c)では、デュレーションがイールドカーブがパラレルに変化したときの「価格の変化率」である一方、DV01やBPV(Basis Point Value)はイー80 ファイナンス 2021 Mar.連載日本経済を 考える

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