ファイナンス 2021年3月号 No.664
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CVCの課題と「アクセラレータープログラム」・CVCの運営実務者アンケートによると、CVCの設立の狙いとして、近年は、財務リターンに期待する回答が多くなっている。また、運用面での課題として、投資条件や投資先の選定に難しさ感じているという回答が多い。投資先を選ぶにあたり、投資家間の競争がある中で、事業シナジーに加えて財務リターンにも重きを置くようになり、慎重な投資判断が求められていることが窺える(図表7、8)。・こうした中、有望ベンチャー企業を発掘・囲い込むための方策として、大企業による「アクセラレータープログラム」の実施例が増えている。アクセラレータープログラムとは、募集をかけた中から選抜したベンチャー企業に対して、出資のほか、一定期間にわたる経営支援プログラムを提供し、事業成長を加速させる取組みである(図表9)。・近年では、プログラム運営を支援する企業も登場し、活動を広げている。ベンチャー企業との接点が少ない大企業でもこうした運営支援企業と組むことでアクセラレータープログラムに取り組めるようになってきた。図表7 CVC設立の狙いどちらも狙っていない(例:社会貢献、CSR等)財務リターンのみ財務リターンが主目的だが、同時に事業シナジーにも期待事業シナジーが主目的だが、同時に財務リターンにも期待事業シナジーのみ50403020100(%)2019年2017年図表8 CVCの運用課題適切な投資条件で出資できているのか自信がないなかなか良い投資先を見つけることができない財務リターンが厳しい/思ったほど実現できていない思ったほど、事業シナジーが実現できていないベンチャー業界の知見・経験があるメンバーを確保することができないベンチャー企業の経営者との信頼関係が築けておらず、協力を得るのに苦労している案件数に対して、メンバーの人数が足りない4035302520151050(%)2019年2017年図表9 プログラム運営例大企業とベンチャー企業の連携に求められること・CVCの運用状況をみると、運用開始前だと回答をしたCVCが30%に増加しており、引き続き、CVCが活発に設立され、運用が検討されている状況にあると考えられる(図表10)。・このように、CVCやアクセラレーターの動きは活発化しているが、目利きや経営支援能力を兼ね備えた人材が、社内で確保できるとは限らない。経済産業省は、ベンチャー連携に適した人材の特徴(図表11)を示しているが、こうした社内人材を育成していくとともに、必要に応じて、外部の人材も取り入れていくことが必要となるだろう。・CVCがベンチャー企業への投資を行う際には、短期的な視点ではなく、中長期的な視点を持ち、ベンチャー企業の各成長ステージに応じたサポート(資金、人材、技術等)を行うことが重要と考えられる。大企業のCVCを通したベンチャー企業との連携が、ベンチャー企業のイノベーションシーズを開花させることによって、日本企業のイノベーションの加速化につながることを期待したい(図表12)。図表10CVCの運用期間010090807060504030201020172019(年)(%)既にCVCの運用を終了運用開始3年以上(現在運用中)運用開始1年以上3年未満運用開始1年未満CVC運用開始前(設立決定、決定見通し)図表11ベンチャー連携に適した人材特徴マインドセット熱意があり自走できる (⇔やらされ感があり受身)→全員が充足しているべき、必須の要件ベンチャー企業に対して 敬意を持って接する (⇔上から目線で接する)スキルセット社内ネットワークが豊富→これら全てをハイレベルに兼ね備えた人材は通常いない。外部も含めた人材の組合せで充足させるベンチャーコミュニティに ネットワークがある事業開発やベンチャー投資 の経験がある図表12投資先のステージ別課題経過 年数Seed StageEarly StageExpansionStageLaterStage事業 ステージビジネスシーズ の発掘、 製品開発製品、サービスの試作、市場導入製品、サービスの量産化IPO、M&A等 の検討課題・起業数の不足・研究開発型ベンチャー創出力の 不足・グローバルに戦うための大規模な資金不足・大企業と研究開発型ベンチャーのオープンイノベーション、連携不足・EXIT手段偏り (IPO偏重)・グローバルベンチャーが少ない(出所)経済産業省「民間企業のイノベーションを巡る現状」、みずほリポート「日本企業の競争力低下要因を探る」、経済産業省「研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査」、米山・山内・真鍋・岩田「日米欧企業におけるオープン・イノベーション活動の比較研究」、総務省「情報通信白書 令和元年版」、pwc「CVC実態調査2019」、経済産業省(2020)「革新的環境イノベーションへのファイナンス事務局説明資料」、経済産業省(2019)「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第2版)」、経済産業省(2017)「イノベーション・ベンチャー政策について」、ニッセイ基礎研究所「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」「増えるベンチャーとの連携、大企業によるアクセラレータプログラム」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。プログラムの告知・参加募集(イベント・説明会等の実施)↓選考(書類・面接等によりプログラム参加チームを選抜)↓一定期間の支援プログラム実施(オフィススペース等経営リソース提供、経営指導実施)↓最終発表会(DEMO-Day)(参加ベンチャー企業のプレゼン、優秀チーム表彰) ファイナンス 2021 Mar.73コラム 経済トレンド 81連載経済 トレンド

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