ファイナンス 2021年3月号 No.664
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おわりに「地球最後のフロンティア」での自由貿易は、アフリカが直面する固有の課題を露呈させつつも、アフリカ大陸、そして同大陸との経済的紐帯を深める(たい)者にとって大きな可能性を示す。制度としてのAfCFTAがアフリカの潜在力を引き出し広範な便益をもたらすか否か、またアフリカでもアジアのように中産階級が育ち消費拡大を牽引する成長パターンが描けるか否か等、多くの議論がある。しかしながら、少なくとも政治的、歴史的には、アフリカ諸国がAfCFTAを通じて汎アフリカ主義を具現化し、経済統合の重要性を国際社会に示した意義は大きいのではないか。AU本部内のエンクルマ・ガーナ初代大統領の像(筆者撮影)。2020年8月にAfCFTA事務局がガーナに開設された。ガーナは、他アフリカ諸国に先駆けて1957年に独立を達成し、クワメ・エンクルマ(Kwame Nkrumah)初代大統領はOAU設立にも指導的役割を果たした。AfCFTA事務局のガーナへの設置はアフリカ統合の象徴とも言える。OAU設立に際して、エンクルマ大統領の言葉として「・・・Ethiopia shall stretch forth her hands unto God, Africa must unite. May, 1963」とある。*33) オリビエ・ピオ(Olivier Piot,2017)山中達也訳「『アフリカピタリスム』の先駆者たち」『ル・モンド・ティプロマティーク2017年11月号』*34) H.E.Paul Kagame(2017)“Report on the Proposed Recommendations for the Inistitutional Reform of the African Union”*35) Michelle Defreese(2016)“The Puss for African Representation through UNSC Reform”, Charged affairs – YPFP’s Foreign Policy Journal20世紀初頭に活躍した「汎アフリカ主義の父」、アフリカ系アメリカ人のデュボイス(W.E.B. Du Bois)は、欧米中心の世界秩序が植民地主義と人種主義を生み戦争を引き起こしたと主張した一方で、現在ではモーリタリアの実業家バマトウ(Mohamed Ould Bouamatou)は、顕在化するアフリカ域内の経済格差を踏まえ「アフリカ大陸のいくつかの国は、いまやアフリカ人自身によって植民地化されている*33」との警鐘を鳴らす。2017年にカガメ・ルワンダ大統領がAUの組織改革を訴えた通称「カガメ・レポート」は、これまでAUが諸施策を実現できていない原因は、ビジョンや資源、能力等の不足ではなく、それはアフリカ諸国指導者達の責任とし、AUは自分達が決めた決定事項を実施せず、AU加盟国はAUの価値を見失い、国際的パートナーはAUへの信頼を失い、アフリカの人々もAUを信頼しなくなったと指摘する*34。アフリカ大陸がAfCFTAによる経済的便益を享受し、汎アフリカ主義が目指す統合を進めるためには、アフリカ人自身によるAfCFTAの下での経済、政治、社会諸政策実施への強いコミットメントが何よりも必要であろう。2050年には4人に1人がアフリカ人になるという人類の「アフリカ人化」が進んでいく。2004-14年の国連安保理決議の半分以上はアフリカ関連とされ*35、今やアフリカ問題はSDGsや気候変動と並ぶ地球規模課題の一つである。目下の課題は山積するが、焦る必要はない。アジェンダ2063の最終到達点は2063年であり、あと40年以上もある。パートナーたる我々としては、独自の経済発展を模索するアフリカとの長期的な関係を見据えた協力を深めていくことが肝要であろう。プロフィール塚本 剛志2001年外務省入省。2016-2018年ADB日本理事室理事補(出向)を経て、アフリカ連合日本政府代表部一等書記官(本稿執筆時)。2021年1月末よりメキシコの在レオン日本国総領事館首席領事。 ファイナンス 2021 Mar.71海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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