ファイナンス 2021年3月号 No.664
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Priority:PAP1)は、51の地域プログラム、400以上のインフラプロジェクトを含んでいる(うちエネルギー54、運輸236、ICT114、水資源9)。これらプロジェクトのために2040年までに3,600億ドルのファイナンスを必要とするが、これまで816億ドルが投資され、その内訳は各国政府自己資金42.1%、中国23.8%、二国間及び多国間ドナー並びにアフリカ機関24.1%、民間セクター2.8%と発表している(2019年11月時点)*24。PIDAは民間資金の動員を求めているものの、PAP1での民間資金の割合は圧倒的に少ない。世界的にインフラ需要が拡大する中で、アジア等他地域でも民間資金呼び込みの触媒としての公的資金の効率的な動員やPPPに代表される革新的な施策が議論されている*25。種々のリスクを伴う発展途上国でのインフラ・ビジネスでは、コスト削減及びリターン確保、またインフラ収入及び債務返済保証等のリスク軽減を組み込んだ、いわゆる「バンカブル(bankable、民間融資可能)」なプロジェクトを組成する必要がある。当該国での法規制や契約の確実な実施、PPPに関する政府ガバナンスの向上、当該国の民間資金活用のためには国内金融システム整備の必要性も伴う。アフリカでも、世銀やAfDBなど開発金融機関がそのような支援を推進してはいるが、民間資金にとって魅力あるインフラプロジェクトの組成、及びそのための環境整備は一朝一夕に実現するものではない。PIDAは、PAP1に続き、240のインフラプロジェクト、うち71は地域プロジェクトから成る2021-2030年の第二期優先行動計画(PAP2)を準備し、2021年2月のAU総会にて採択される見通しである。アフリカのインフラ需要ニーズが俎上に上る一方で、現実的なファイナンスは長期的な課題である。(4) 人の移動の自由と平和安全保障-アフリカ大陸の本質的課題アフリカ経済統合が避けては通れない本質的な課題は、大陸の平和安全保障である。AfCFTA実施に向け*24) https://www.au-pida.org/news/pida-2019-need-for-nancial-resources/*25) 塚本剛志(2017)「ADB報告書「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」が示すアジアのインフラ需要予測」『ファイナンス2017年10月号』*26) 正式には“The Protocol to the Treaty Establishing the African Economic Community Relating to Free Movement of Persons, Right of Residence and Right of Establishment”*27) AUがHPで公表する最新情報(2019年7月時点)では、署名32か国、批准4か国。*28) The East African(Mar16, 2019),“Border crisis:Indifference from Uganda rankles Rwanda”て様々な議論が展開されるが、いずれも平和安全保障の必要不可欠性と合わせて語られることが多い。世界の諸地域に比し、アフリカでは、組織犯罪、テロ活動、民族衝突、難民・国内避難民、人権蹂躙、更に2020年のコロナ渦を含む国境を越える感染症対策等、人々の生存を脅かす平和安全保障は、コミュニティ、国家、地域、大陸のいずれのレベルにおいても根源的な課題であり、政治や外交に及ばず、経済、社会、文化、教育、環境、公衆衛生等、あらゆる領域と密接に関連する。AfCFTAを含むアジェンダ2063は、経済領域の他、平和安全保障、社会文化など他分野での目標を掲げ、多岐に渡る取組を総合的に進め「我々が欲するアフリカ(The Africa we want)」を希求している。AfCFTAも、自由貿易の果実を大陸に均霑しその他領域に正の効果を生み出すことが期待され、2018年3月のAfCFTA設立協定署名時には、AfCFTAと密接に関係し、アジェンダ2063の旗艦プロジェクトの一つ「4.アフリカ旅券及び人の自由な移動」としても位置づけられる「人の移動の自由に関する議定書*26」も同時に署名された。同議定書は、加盟国内の人の移動の自由、居住の自由、経済活動の拠点設立の自由を認めるものであり、AfCFTAによる物品、サービスの自由移動と相俟って、域内経済に相乗効果をもたらすことが期待される。しかしながら、アフリカの指導者の中には、人の移動や居住の自由化は移民問題への主権や国内安全保障、また国内への外国人労働者流入の観点から慎重となる向きがあり、同議定書の署名及び批准はAfCFTA設立協定と比して進んでいない*27。アフリカ最大の人口2億人を擁するナイジェリアは、2020年11月に駆け込みでAfCFTA批准を達成したが、その背景には同国は密輸対策のため近隣国との貿易を閉鎖してきたとの背景がある。2019年には、ルワンダとウガンダの両国大統領間の政治的不和から一時的に両国間国境が封鎖され、メディアは「ルワンダ・ウガンダ国境危機」と報じた*28。南アフリカでは、国内の就業機会を奪うとして外国人労働者に対する日常的な排斥運動が ファイナンス 2021 Mar.69海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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