ファイナンス 2021年3月号 No.664
70/102

デジタル操作に長けており、アフリカは他地域よりもデジタル経済に大きな可能性を有する。制度化も進んでおり、アフリカ各国通貨での決済を可能とする汎アフリカ決済システム(Pan-African Payment and Settlement System:PAPSS)や、大陸内の貿易フローや市場情報を提供するオンラインダッシュボードであるアフリカ貿易観察所(African Trade Observatory:ATO)が立ち上げられた。経済部門に止まらない波及効果として、大陸内諸地域間の経済関係が緊密化すれば、ある国や地域の平和安全保障問題が全アフリカ諸国共通の利害問題となり、大陸レベルでの平和も促進される。更にはコロナ渦との関係では、未曾有の感染症拡大のためAfCFTA開始が遅れはしたが、コロナがもたらした、アフリカと周辺地域間の経済関係の一時的な停滞によりアフリカ経済の対外依存の実態がより一層浮き彫りとなったことを受けて、アフリカ有識者からは、アフリカが外部に依存しない強靱な経済を構築するチャンスであるとの方向性も示されている。以上のように、大陸全体に覆い被さる自由貿易枠組みがもたらすとされる正の効果を念頭に、アフリカは明るい未来を思い描いている。AfCFTAには、日本のビジネス界からも関心が寄せられており、日・アフリカ関係緊密化の一助となることが期待される。*12) Abiy Ahmed(Sep 9, 2020),“Africa’s Peace and Prosperity Begin at Home”, http//www.project-syndicate.org/commentary/africa-peace-prosperity-geopolitical-power-by-abiy-ahmed-2020-09?barrier=accesspaylog*13) UNCTAD(2019),“Economic Development in Africa Report 2019”*14) tralac(2019),“The African Continental Free Trade Area –A tralac guide”4. 「アフリカの苦闘は、実施にある」-AfCFTAへの課題2019年にノーベル平和賞を受賞したアビィ・エチオピア首相は、アフリカの平和と繁栄に関する寄稿文の中で「アフリカの苦闘は、実施にある」*12と述べる。本節では、AfCFTAの運用、現実の貿易活動につき指摘される課題を概観する。(1) アフリカ域内貿易の実態-産業多角化なくしてバリューチェーンなしアジア、欧州、北米等、他地域で深化する経済統合との比較で常に指摘されるのは、アフリカ域内貿易量の少なさである。UNCTAD*13によれば、2015-17年の世界各地域における域内貿易割合は、欧州65%、アジア61%、米州47%であるのに対し、アフリカ域内貿易はわずか15%に過ぎない。2017-2018年のアフリカから域外への輸出量は22%増であったのに対し、同時期の域内貿易増加分はわずかに1%であった*14。つまり、アフリカ諸国の貿易構造は域外依存度が極めて高い。多くのアフリカ諸国の輸出品目の大部分は付加価値を伴わない一次産品で、生活に必要な消費財は域外から輸入する。それ故、AfCFTA導入により、アフリカ地元企業が積極的に国境を跨ぐビジネスに参画し、緊密な生産・流通ネットワークを構築し、地域バリューチェーンの活発化が期待される。しかしながら、上述のとおりアフリカ諸国では貿易構造が相対的に類似し、現状では関税の有無にかかわらず相互に輸出入できる産業が必ずしも育っているわけではない。国境を跨ぐ産業連関は制度を整えたからといって自然発生するものではなく、あくまで既存産業に立脚して初めて生み出されるものである。前世紀後半から著しい経済発展を遂げ、今や世界のイノベーターとして台頭するアジアの例を見ると分かりやすい。アジアでは民間企業の生産と流通プロセスが分断(フラグメンテーション)され、分断された各ブロックが異なる発展段階にある域内各国に散在する比較優位を先取りして展開し、国際分業に基づくビジAUのエンブレム。AU委員会のある職員によれば、アフリカ大陸の下の7つの輪は、アフリカ大陸の北部、東部、西部、中央部、南部の5つの地域、島嶼部、そして、ディアスポラ(アフリカ大陸を離れて生活するアフリカ系の人々)の連帯を示している由。66 ファイナンス 2021 Mar.連載海外 ウォッチャー

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る