ファイナンス 2021年3月号 No.664
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な投資を行う考えのファンドもあります。パートナーズ・グループでは、先日、多摩ニュータウンにあるオフィスビルを買収しました。コロナの影響で都心外のオフィスに需要が増加しており、また、物件の改装等を通じて、新たな付加価値を狙うことができると考えています。―我が国への投資を考えた場合、人口減少問題が大きなネックになっているのではないかと思います。一部報道では、コロナの影響により、更に出生数が減少するのではないかと予想する報道もありました。投資家としてどのようにご覧になりますか。棚橋 日本の強みは、東京以外にも発展した都市がたくさんあること、均一的な発展・成熟を遂げていることです。バイアウトの投資先を選ぶうえで重要なポイントは、成長していること、安定していることです。この点、日本はどの地域の会社に投資しても、一定の安定した収益を見込め、投資機会に恵まれているといえます。問題は言葉です。魅力的な投資先は日本に点在しているのに、投資先が英語に対応できないこと等により、外資系PEファンドは案件を発掘しづらく、よって参入も難しい状況になっています。これを解決するためには、外資系PEファンドは日本人の採用を増やす必要があります。これに気付いて日本人の採用を増やしたファンドはいくつかありますし、外資系といってもほとんど日本的な社風のファンドも多くあります。そうしたファンドから投資を受ける中小企業側にとっては、やりやすくなっているのではないでしょうか。将来的には、こうした動きによって、日本における優れた中小企業の発掘が進んでいくことを期待しています。―日本では、一般にPE投資への理解はなかなか進まず、機関投資家でも、PEファンドの活用が進んでいないと言われます。今後、日本においてPE投資が浸透・発展していくためには、どのような方策が考えられるでしょうか。棚橋 まず、なかなか人材がいないという問題があります。大学で教鞭をとっていた際に学生から、どうすればPEファンドに就職できるか聞かれることがありましたが、現状、新卒で入社することはかなり難しく、コンサルや銀行等を一旦経由して、PEファンドに入るということがほとんどです。欧米では、MBAを卒業した学生が、そのままPEファンドに就職することがよくあります。そうした学校を多く作って、小さくてもPEファンドの数が増えてくれば、事業承継等で困難を抱える中小企業を救えるのではないでしょうか。また、日本の中小企業は400万社ありますが、バイアウトを手掛けるファンドは30~40社程度で、投資先300社(=30ファンド×10社(1ファンドあたりの平均投資企業数))を5年程度かけて手掛けることが多く、400万社をカバーするのはとてもできません。事業承継を担当できる能力がある人材は更に数が少ないです。中小企業とファンドを結ぶ仲介会社や、地域に密着している地方銀行の役割が重要と考えます。しかし、地方銀行は、かつては各行に特色があり、メインバンク制のもと、様々なリスクを取った融資を行っていましたが、現在ではバーゼル規制を受けているからか、どの銀行でも同じことをやっているように見えます。人材も育っていないように感じます。地方銀行の人材で優秀な人が、PEファンドに流出することも増えています。―棚橋社長は、ESG投資の分野でも活躍されています。現在、ESGの、特にGについては、各企業が人材の多様化などを数値目標化していくことが求められています。ESGの指標化について、現在の議論をご教示いただけますでしょうか。棚橋 まずESGの歴史を紐解くと、2006年4月に責任投資原則(PRI)協会が設立され、ESGという言葉が誕生しました。当初は、ESGといってもその言葉だけで、具体的に何をやればよいか、企業にとってはよく分からない状態でした。そこで、2015年9月の国連総会でSDGsとして17のゴール・169のターゲットが表明され、具体的なアウトプットとして、認識されるようになりました。ESGやインパクト投資の測定を行うため、様々な48 ファイナンス 2021 Mar.SPOT

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