ファイナンス 2021年3月号 No.664
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国ではそういった傾向が見られません(図表4)。日本企業は、設立直後は米国と遜色ない「利回り」をたたき出していますが、起業家・オーナー経営者からサラリーマン経営者に「発展段階」が進むにつれ果断なリスクテイクができなくなります。米国で、成熟企業でも高いリターンが長期間維持されているのは、その裏側で絶えず高いリスクテイクがなされているからです。日本の上場企業の63%でROE(過去10年平均)は8%以下になっていて、資本コストを下回っています。いわば「マイナスの複利企業」です。このままでは、「みなで貧しくなる」道をまっしぐらに進んでいると言えます。―本日は日本企業の様々な課題について理解を深めることができました。お忙しい中お時間を頂戴し、誠に有難うございました。(この勉強会は、2020年11月18日と12月15日に行いました。)2棚橋俊介さん (パートナーズ・グループ・ジャパン 株式会社 代表取締役社長)プロフィール東京大学経済学部卒。ミシガン大学経営学修士(MBA)。2017年にパートナーズ・グループに参画するまでには、1996年に三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社、ゴールドマンサックスアセットマネジメント、アントキャピタルを経て、2010年から2016年までアーク・オルタナティブ・アドバイザーズ(現アーク東短オルナタナティブ)代表取締役社長。責任投資関連では、2005年に責任投資原則(PRI)のエキスパートグループメンバー任命、2013年4月より、責任投資原則(PRI)協会日本ネットワークPEワーキンググループ議長、2017年よりインフラストラクチャー・ワーキンググループ副議長も歴任。2019年10月にはアドバイザリーボードメンバー就任。ESG活動を積極的に推進。―棚橋社長は、長年にわたり、オルタナティブ投資の分野でご活躍されております。まずは、オルタナティブ投資が従来型の投資とどのように異なるのか、ご教示ください。棚橋 伝統的投資とは、株や債券などへの投資で、オルタナティブ投資とは、ヘッジファンド、プライベートエクイティ(PE)、インフラ、不動産などへの投資です。PEについては、投資先企業の株式の過半数を取って経営権を握った上で、価値の向上を図るバイアウトが中心ですが、ベンチャーキャピタル投資もPEの一部です。インフラは、いわゆるグリーンフィールドとして一から投資案件を組成し、キャピタルゲインを狙うものと、ブラウンフィールドという既に投資先として完成している案件を買ってインカムゲインを得る方法があります。不動産も同様に、土地の開発から手掛けるものもあれば、建設から始めるものなど、段階は様々です。PE投資のコロナ禍における現況ですが、バイアウトについては、ITやヘルスケアの分野は好調を維持する反面、エンタメやホテル業界はかなり厳しく、投資家も守りの態勢となっています。PEファンドは、政府と同様に、コロナの影響で苦しむ投資先に「補助」を出しています。パートナーズ・グループでは、希望する役員、従業員から報酬から差し引く形で資金を捻出し、それを投資先に補助しました。この業界は、PEファンドごとのムラ社会となっていて、ファンドには投資家としての責任があります。このような急場をしのぐ方法を取りながらも、徐々に投資先は上向きつつあると考えています。インフラでは、主にUp Stream(鉱山、油田等)、Mid Stream(パイプライン等)、Down Stream(ガスステーション等)に分けられますが、これまで機関投資家は景気変動の影響をあまり受けないMid Streamの案件を中心に投資しています。実際に、コロナ禍においても、Mid Stream案件は安定性を維持しました。他方、Up StreamとDown Streamについては、需要減の影響を大きく受けている投資先もあります。不動産については、実は、住宅やオフィスなどはコロナの影響は今のところ少なく、特に日本国内の案件では2020年のディールボリュームは、2019年より大きい結果となりました。ただ、今後に対しては、少し警戒感があるように思います。最近、都心のオフィス売却の話が話題になっていますが、それに対する態度はファンドにより異なり、オフィス投資は一切行わないと決めたファンドもありますし、引き続き積極的 ファイナンス 2021 Mar.47財務省再生プロジェクト 部局横断的勉強会(2)SPOT

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