ファイナンス 2021年3月号 No.664
50/102

借入を増やしてレバレッジを高める余地が大きくなります。日本企業は、リスクテイクをしていないにも関わらず、レバレッジが低いと言えます。例えば、食品・飲料のような生活必需品については、消費者の嗜好も比較的保守的で、買いなれたものを買う傾向が強く、こうした業種では売上・利益の変動性が少ないです。そうした事業リスクの低い業種では、ある程度の財務リスクを負うことも十分可能です。実際、こういった業種においては、米国企業、欧州企業ともにレバレッジが活用されています。同じ業種でも日本の各社のレバレッジはいずれも低いです(図表2)。また、そもそも、米欧企業は、利益率が日本企業より圧倒的に高いこともあり、こうした複数の要因がROEのギャップにつながっています。―日本企業のリスクテイクやリターンについてはどのように考えますか。中神 日本企業のリスクテイクは世界最低水準で、取ったリスクに見合うリターンも上げられていないとする研究があります(図表3)。特に成熟企業のリターンが低いです。設立からの年数が長くなるにつれて、リターンが低下しますが、米(図表3)日本企業のリスクテイクは世界で最下位レベル89101112131415161718191234567韓国トルコフランスリスクテイクフィンランドロシアスイス南アフリカインドタイ米国マレーシアスウェーデンメキシコカナダオーストラリアブラジル台湾英国オランダシンガポールドイツ香港イタリアスペイン中国日本全体ベルギー(出所)中神康議『三位一体の経営』(2020年)、蟻川靖浩、井上光太郎、齋藤卓爾、長尾耀平「日本企業の低パフォーマンスの要因」宮島英昭編著『企業統治と成長戦略』(2017年)(出所)中神康議『三位一体の経営』(2020年)(データ)蟻川靖浩、井上光太郎、齋藤卓爾、長尾耀平「日本企業の低パフォーマンスの要因」宮島英昭編著『企業統治と成長戦略』(2017年)(図表4)日本企業は成熟企業ほどリターンが低い設立からの年数(年)ROA(%)日本企業米国企業(出所)中神康議『三位一体の経営』、データ:Yamaguchi et al., 2018, “Staying Young at Heart or Wisdom of Age: Longitudinal Analysis of Age and Performance in US and Japanese Firms,”IIR Working Paper; No.18-41, Institute of Innovation Research, HitotsubashiUniversity.(出所)中神康議『三位一体の経営』(2020年)(データ)Yamaguchi et al., 2018, “Staying Young at Heart or Wisdom of Age:Longitudinal Analysis of Age and Performance in US and Japanese Firms,” IIR Working Paper; No.18-41, Institute of Innovation Research, Hitotsubashi University.(図表2)事業リスクの低い業種(食料飲料企業)で、米欧企業はレバレッジを活用ROE(%)売上高利益率(%)総資本回転率(倍)レバレッジ(倍)(日本)味の素4.72.60.82.3キリンHD17.68.50.82.5サントリー食品インターナショナル11.46.20.82.2カルビー13.27.81.31.3東洋水産6.44.61.11.3(米国)コカ・コーラ37.818.80.45.0ペプシコ98.719.40.86.2ゼネラル・ミルズ26.610.40.64.6ケロッグ55.99.90.87.1ハーシー101.815.11.25.7タイソン・フーズ25.97.61.42.4(欧州)ネスレ17.111.00.72.3アンハイザー・ブッシュ・インベブ6.48.20.23.5ハイネケン13.78.50.53.0(注)2018年度の決算を使用。(出所)中神康議『三位一体の経営』(2020年)46 ファイナンス 2021 Mar.SPOT

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る