ファイナンス 2021年3月号 No.664
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巻頭言組織で・個人で、 ジェンダー主流化を国連広報センター所長根本 かおる今回の寄稿が掲載される3月は、8日が「国際女性デー」、そして国連の「女性の地位委員会」が15日から26日まで開催され、国連にとっていわばジェンダー月間だ。ジェンダー平等を日頃から組織・個人の立場でどのように推進するか、国連での事例を紹介しながら書きたい。国連のトップ、アントニオ・グテーレス事務総長は、ジェンダー不平等を指して「世界で最も蔓延している人権侵害」と言明している。グテーレス事務総長は自身を「フェミニスト」と呼び、「ジェンダー平等は権力の問題。この権力は数千年にわたり、男性によって用心深く守られてきた。それは私たちのコミュニティー、私たちの経済、私たちの環境、私たちの関係、そして私たちの健康を害する権力の濫用に他ならない」と様々な場で発言して彼のビジョンを共有し、かつ実行に移している。2017年1月の就任以来、ジェンダー平等を自身の最優先課題に挙げ、就任から女性を積極登用し、1年で幹部会に出席する事務次長・事務次長補レベルの幹部職員において男女同数を達成、今では女性の方が多い。途上国において事務総長の名代として開発分野で国連国別チームを統括する「国連常駐調整官」についても、男女同数を達成した。今後は部長級以下のクラスにおいても2028年までにジェンダー・パリティーを達成することを目指している。職員の男女比だけではない。活動そのものにおいてもジェンダー視点を主流化している。例えば、私の所属する国連のグローバル・コミュニケーション局では、同局が運営する国連のウェブサイトのコンテンツを点検したところ、コンテンツ内で取り上げた組織の長や専門家には圧倒的に男性が多く、支援を受ける側の声には圧倒的に女性が中心で、ジェンダー・ロールの固定化に加担していることがわかった。今後は意識して女性を「担い手」という視点から描くことに取り組むことにし、今年の国際女性デーのキャンペーンも「リーダーシップを発揮する女性たち:コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」をテーマにしている。職員のレベルでも、私たちの局の管理職は人事評価システムの中でジェンダー平等の推進に関する目標を挙げることが求められている。私のジェンダー目標実現のためのアクションの一部をご紹介すると、自分たちが主催・共催する行事では登壇者のジェンダーバランスを確保する。そして、イベントへの登壇や番組への出演などを求められた際に、必ず登壇者・出演者のジェンダーバランスを確認し、著しくバランスを欠く場合には是正を求め、受け入れられなければ辞退する。この身近なアクションを実践して感じるのは、メディアも含め、多くの日本の関係者に問題意識がないということだ。指摘されて初めて問題に気付いたというケースがほとんどだ。悪気はない。ただ、その無意識がジェンダーバイアスを拡大再生産してしまってはいないだろうか。背景の異なる人々が参加する多様性の尊重は、持続可能な開発目標(SDGs)を横断的に支える礎だ。そして私は、多様性こそ力の源泉だと信じている。多様な視点があるからこそ、リスクをあらかじめ察知することができ、新たなビジネスチャンスを見出すことができる。あうんの呼吸ではない巻き込み型のマネージメントを通じて当事者意識も高まる。日本の同質性の高い組織では多様な意見をまとめることを「手間・時間がかかり、面倒臭い」と見るきらいがあるかもしれないが、一面的な価値観だけで物事を決めてしまうことは、常にグローバルな視線に晒されている現在においては非常に危険だろう。ESG投資への関心が高まっている昨今、是非一度読者の皆さんの組織において、そして個人のレベルでジェンダー平等推進のために何ができるのか考えてみていただきたい。ファイナンス 2021 Mar.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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