ファイナンス 2021年3月号 No.664
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2新たな国有財産の活用策一方で、答申において今後の検討課題とされているデジタル領域の技術革新や働き方改革*4、その後、現在まで続くコロナ禍の中で見えてきた、「新しい生活様式」の実践やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進といった新たな課題について、一見、無関係に見える国有財産行政において何か出来ないか、また、気候変動の影響で大規模化する自然災害への対応について、これまで災害時の国有財産の無償貸付などを通じて地域社会に貢献してきたところであるが、もっと出来ることはないか、今事務年度始まって以降、理財局内で鋭意検討してきたところである。そして今般の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(令和2年12月8日閣議決定)において、デジタル化やテレワークの普及など、ポストコロナの社会経済構造の変化や、頻発する自然災害への対応など、答申でカバーされていない社会情勢の変化へ対応すべく、以下の国有財産の新たな活用策をとりまとめたところである(図3)。(1)国土強靱化など安全・安心の確保遊水地・貯留施設の整備気候変動の影響による自然災害の激甚化を象徴するものとして近年、台風や豪雨時における都市部河川の氾濫が深刻な問題となっている(首都圏でも多摩川が氾濫し二子玉川や武蔵小杉などで大規模な浸水被害が起きたのは記憶に新しい)。国土交通省においても、市街化の進展により浸水被害防止が困難な河川を特定都市河川に指定(現在、神奈川県の鶴見川など全国で8河川を指定)しているが、流域で遊水地や雨水貯留浸透施設*5の整備を更に進めるため、今通常国会に提出された特定都市河川浸水被害対策法改正案においては、特定都市河川の流域において地方自治体が整備を行う場合に、国有地の貸付料を減免する規定が創設されている。財務省としても、こうした国交省の取組に呼応し、地方整備局に対して全国に所在する国有地の候補リスト(1万箇所超)を*4) 「国有財産を巡る状況については、(中略)、国有財産として管理する不動産が増加する可能性があるほか、デジタル領域の技術革新や我が国における働き方についての変革の動きがみられるところであり、行政の進め方や働き方も大きな影響を受けることも十分想定されるなど、今後、さらに変化していくことも予想される。こうした意味では、国有財産の「最適利用」に向けた検討は本答申で終わるものではない。」(令和元年6月14日国有財産分科会答申抜粋)*5) 遊水地:洪水を一時的に貯めて、洪水の最大流量(ピーク流量)を減少させるために設けた区域であり、河川整備計画において計画高水流量を低減するものとして定められたもの(河川法第6条第1項第3号、河川法施行令第1条第2項) 雨水貯留浸透施設:雨水を一時的に貯留し、又は地下に浸透させる機能を有する施設であって、浸水被害の防止を目的とするもの(特定都市河川浸水被害対策法第2条第6項)。提供するとともに、3月下旬の財政審国有財産分科会において、貸付料減免制度の運用面について審議を行う予定としている。地方自治体における災害発生前の対応に係る支援これまでも災害発生時において、がれきや資材の仮置き場、あるいは一時的な避難といった用途のために、国有財産法第22条等の規定に基づき、地方自治体に対して未利用国有地や庁舎・宿舎を無償提供してきたところであるが、気象予報が発達し、台風等の進路予想で災害発生が高確率で予見できる時代にあって、地方自治体において発災前に避難場所やがれきの仮置き場等を確保しておくニーズが生じている。こうしたことから、財務省としても、発災前にも国有財産の無償提供が可能である旨、国有財産法の解釈を明確化し、通達を発出し周知を図るとともに、活用できる国有財産のリストを地方自治体に提示し、災害対応を支援しているところである。(2)ポストコロナの経済構造への転換デジタル社会の基盤となる5Gの基地局整備加速DXを加速させるためには、従来よりも遥かに大容量・高速通信が可能となる5G通信網を早急に整備する必要があるが、5Gは周波数の特性上、各基地局がカバーできるエリアが狭いことなどから、全国展開には可能な限り多くの基地局整備が必要である。四大キャリアにおいては、事業計画を策定し、2024年4月までに約28万局の整備を目標とし、整備を進めているところである。財務省としても、こうした取組を後押しするため、昨年12月、基地局設置の候補となる全国の庁舎・宿舎等のリスト(1万箇所超)をホームページで公表するとともに、全財務局に基地局整備に係る「相談窓口」を設置し、事業者が設置を希望する国有財産を所管する各省各庁との連絡調整や、財務省所管財産の場合は詳細な物件情報の提供を直接行うなど、事業者の相談に応じる体制を整備済みである。30 ファイナンス 2021 Mar.SPOT

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