ファイナンス 2021年3月号 No.664
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はじめに今、国有財産行政は大きく変わろうとしている。国有財産の「売却」から「活用」へ、という流れは、既に「新成長戦略」(平成22年6月)の頃から始まっていたが、一昨年6月、財政制度等審議会国有財産分科会において取りまとめられた「13年ぶりの答申」において、その流れが強力に推し進められた。現場である財務局は、「売って終わり」の行政から、定期借地などの仕組みを通じて、地域社会と「長く深く」お付き合いをしていくという行政手法の転換の真っただ中にいる。そして現在、戦後最悪の国難ともいえる新型コロナウイルス感染症との闘いや、急速なデジタル化、待ったなしの気候変動対策など、社会経済が大きなパラダイムシフトを迎えている中、国有財産行政もこうした動きを機敏に捉え、国有財産というツールを通じて、可能な限り政策に反映していくという攻めの姿勢が求められているのではないか。本稿では、こうした認識のもと、本省・財務局一体となって国有財産行政の新たなフロンティアに切り込んでいこうとする取組について紹介したい。1「13年ぶりの答申」が出るまで人口減少・少子高齢化が進展する中、国有財産行政が地域社会に求められる役割も大きく変化しようとしている。すなわち、これまで介護・保育分野において未利用国有地*1の定期借地を進めて地域社会に貢献してきたが、国民の価値観が多様化する中で、地域の再生・活*1) 未利用国有地:単独利用困難なものを除く宅地又は宅地見込地で現に未利用となっている土地。*2) 国家公務員宿舎の削減計画(平成23年12月):安住元財務大臣により設置された「国家公務員宿舎の削減のあり方についての検討会」においてまとめられた、5年後を目途に宿舎戸数について21.8万戸から5.6万戸(25.5%)程度の削減を行うことや宿舎使用料の見直しを行うことなどが定められた計画。平成29年5月26日の国有財産分科会にて達成が報告された。*3) 宿舎需給のミスマッチ:宿舎の需要と供給について、趨勢的に宿舎が不足している地域や供給過多となっている地域など「地域ごとの需給のミスマッチ」や、世帯用宿舎と単身用・独身用宿舎の過不足など「住戸規格のミスマッチ」などを指す。性化など、地域・社会のニーズも多様化してきているところである。その一方で、「国家公務員宿舎の削減計画」(平成23年12月)*2に基づく宿舎跡地の売却を積極的に進めるなどした結果、未利用国有地のストックが大幅に減少(図1)するなど、国有財産をめぐる状況そのものが変化してきており、国有財産から得られる果実を現役世代で費消するのではなく、将来世代にも裨益する形で国有地の管理処分の多様化を図っていく必要がある。また、人口減少に伴い、特に地方を中心に、空き地・空き家問題や所有者不明土地の問題など、いわゆる引き取り手のない不動産(負の資産という意味で「負動産」ともいわれる)の問題が深刻であり、地方自治体をはじめとした地域社会はその対応に迫られているところであるが、もとより、民法上も相続人不存在の財産は最終的に国庫帰属される可能性があるなど、国としても深く関わっていかざるを得ない問題となりつつある。宿舎・庁舎など、国の行政目的に供される国有財産である行政財産についても、先述の国家公務員宿舎の削減計画の達成後に生じている宿舎需給のミスマッチ*3や宿舎の老朽化の問題、霞が関地区における庁舎の狭隘状況の解消などが課題として挙げられる。こうした国有財産を巡る様々な社会的要請や課題に応えるべく、令和元年6月14日、財政制度等審議会国有財産分科会(以下、国有分科会)において、平成18年以来、約13年ぶりの答申「今後の国有財産行政の管理処分のあり方について」が取りまとめられた。国有財産行政の新たな展開理財局国有財産企画課長 石田 清/国有財産企画課企画推進室長 荒瀬 塁28 ファイナンス 2021 Mar.SPOT

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