ファイナンス 2021年2月号 No.663
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の大量絶滅後に繁栄した古代魚は、2回目の大量絶滅でほぼ絶滅したが、生き残った魚類の一部は両生類に進化して陸上に進出したとのことだ。3回目の大量絶滅後には爬虫類である恐竜が登場し、4回目の大量絶滅後には恐竜が巨大化して大いに栄えたという。5回目の大量絶滅で恐竜が絶滅すると、哺乳類が進化した。現在人間が繁栄を謳歌しているのは、その延長線上ということのようだ。さてその5回の大量絶滅の原因であるが、4回目までは、地球規模の火山活動による環境の大変化によるとするのが通説らしい。他方、6,600万年前の5回目の大量絶滅については、講演録によると、小惑星の衝突が原因である。火星と木星の間に存在する数多くの小惑星の中の一つが、長楕円軌道で公転するうちに地球に接近するようになり、やがて激突したのだという。その衝突跡がメキシコのユカタン半島北部にある直径170kmにも及ぶチクシュルーブ・クレーターである。直径10数kmの小惑星が、ユカタン半島のあたりに突っ込んだ時の衝突のエネルギーは、広島に投下された原爆の約10億倍以上、生じた津波は高さ約300メートルであったと、以前何かで読んだ記憶がある。衝突に伴う熱波は、周囲広範囲の生物を死滅させるが、それだけでは大量絶滅には至らない。講演録によれば、6600万年前の衝突は、衝突した場所が偶々海岸近くの海中で、有機物がたくさん堆積している地域だった。そのため、衝突のエネルギーで堆積岩中の有機物が高温で燃焼した結果大量の煤が生じた。その煤が成層圏まで舞い上がって地球を覆い、数年間太陽光を遮ったために陸上の気温が十数度低下したらしい。恐竜は、中・高緯度地域では気温低下で絶滅し、赤道付近では気候急変に伴う干ばつで植物が枯れ果てた結果、食物連鎖的に絶滅したという。もし小惑星が海岸近くでないところに衝突したのであれば、有機物の堆積がないので大量の煤の発生はなかっただろうから、地球は寒冷化せず恐竜も絶滅しなかったということになる。大量の煤が生じるような衝突適地?は地球表面の十数%に過ぎないそうだから、恐竜にとっては当たり所が悪かったということになるし、我々哺乳類にとっては幸運だったということであろう。幸運なる哺乳類にしても、今後のことはわからない。突然もう一度大隕石が衝突するかもしれないし、火山活動が急に地球規模で増進して地球環境が激変するかもしれない。何らかの原因で酸素濃度が急減するかもしれないし、オゾン層が大きく破壊されて、地表に到達する有害な紫外線が激増するかもしれない。地球史レベルで言えば、絶滅するのも運、繫栄するのも運ということか。何事も運という考え方は、中高年のおじさんには妙にしっくりくるが、やはり少々切なくもあるし、何やら物悲しくもある。地球史レベルの運には抗えないとしても、少しは夢も見たいし、夢を追いかけていささかの努力もしてみたい。とはいえ、夢見る頃はとうに過ぎて、努力を続ける気力もすでに尽きつつある。せめて、小惑星衝突のおかげで繫栄した我々人間の所為で地球環境が壊れないよう気をつけたいものだ。暖房を控えるため体が温まる料理を食べ、食材ロスを避けるために冷蔵庫の残り物から食べよう…。地球史だ大量絶滅だと身の丈に合わないレベルの話に思いを巡らすうちに、そろそろ夕方近い。さて、晩飯をどうするか。冷蔵庫には、年末に買った安牛肉のスライスがある。すき焼きにするか。それともプルコギか。何となくそういう気分じゃないし、生憎と冷蔵庫に、豆腐はないし、野菜も玉ねぎとセロリしかない。買い物に行けばいいのだが、出かけるのが面倒になってきた。散歩の残り半分のことは、都合よく忘れてしまった。まあ、今晩のところは安直にカレーにするか。カレーが食べたくなるのも正月らしいと言えば正月らしいかもしれない。安牛肉と玉ねぎとセロリだけのカレーは予想外に美味。たっぷり入れたカレー粉の香りにセロリの風味も溶け合って食欲をそそる。隠し味のコーラがよかったのかもしれない。カレー粉中の芳香と苦みの成分クミンは消化促進と整腸の薬効があり、黄色成分ターメリックはウコンの一種で胃の機能を高め肝臓にもいい。その他コリアンダー、チリ、フェヌグリークなどにも色々な薬効があるという。加えて生姜もたっぷりすりおろして入れたから、寝正月の食い過ぎで疲れた内臓によろしかろうと、大汗をかきながらついついお代わりを重ねてしまった。いくら薬効がある香辛料が豊富に入っているからといっても、こんなに食べては我が体重の持続可 ファイナンス 2021 Feb.75新々 私の週末料理日記 その43連載私の週末 料理日記

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