ファイナンス 2021年2月号 No.663
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私の週末料理日記その431月△日正月休み新々正月休み。朝食が焼いた餅だけではちと寂しいので、おかず代わりに納豆に卵を落としてよくかき混ぜる。そういえば、若いころよく行った職場の近くの飲み屋の品書きに「納豆」と「黄金納豆」というのがあった。違いは生卵が落としてあるかどうかだけだったのだが、卵入りの黄金納豆にはゴージャス感があったなあ。楽しきわれらが日々を想い出して、思わずコップに日本酒を注いでしまった。黄金納豆を流し込み、かまぼこの残りをつまんで、朝酒とは朝から幸せである。磯辺餅を3つ食べて、黒豆をデザートにすれば大いに満足。なかなか素敵な朝食であった。食後はやることもないので、ほろ酔い気分で、散歩に出かける。例年と同じく穏やかで静かな正月だが、道行く人がみなマスク姿なのが昨年までと違う。そういえば、昨春新型コロナウィルスが流行し始めたころ、パンデミックの先例として、スペイン風邪のことがしばしばメディアで解説されていた。1918~1919年に流行したスペイン風邪の推定感染者数は、一説には世界全体で数億人、当時の世界人口の3割に上るとされ、推定死者数は数千万人と言われている。折から第一次世界大戦の末期から直後の時期であった。第一次大戦では千数百万人が死亡したとされているが、スペイン風邪の被害はこれをはるかに上回る悲惨なものであった。人類史上最悪のパンデミックは14世紀のペストの大流行である。一説には当時の世界人口約4億5千万人のうち、約1億人が死亡したとされ、特にヨーロッパでは総人口約8千万人のうち約2500万人が死亡したと言われる。何ともすさまじいものだが、人類史を超えて地球史レベルで言えば、直近5億年間に、地球上の生物が全滅しかかった大量絶滅が5回あったとか。以前読んだ或る会報中の理学博士の講演録に書いてあった。あてもなくふらふら歩いていると、とりとめもなくいろいろなことを考える。ずいぶん高尚なことを考えていたような気もするのだが、家に帰りついたころには何を考えていたのか大方忘れてしまうのが、何とも情けないところである。とはいえ、今日の散歩の目標8千歩の半分ぐらいこなしたことに満足して家に入る。一休みすると、昼飯時である。久しぶりにパンを食べたくなって、賞味期限切れの食パンの残り3枚が冷凍庫にコチコチになっていたのを思い出す。ベーコンエッグを焼き、コーヒーを淹れ、パンをトースターに並べる。家の者たちが不精にもカップ麺を食べているのを尻目に、こんがり焼けたトーストに、パンの厚さと同じぐらいたっぷりとバターをのせ、ジャムも同様にたっぷりとのせて食べる。うまい。ジャムのせバタートーストはかくも美味なるものであったか。糖とでんぷんと脂の組み合わせほど美味いものはない。塩漬け肉と卵と油脂の組み合わせもまた美味。たちまちにしてベーコンエッグとパン3枚を胃に収める。食後は年賀状に目を通して住所録を整理しなくてはならないのだが、すぐ飽きてしまって寝室に行く。枕元に積み上げた本やら冊子やらかき回していたら、例の会報が出てきた。講演録を読み返す。(注)学士會会報No933 海保邦夫氏講演地球誕生は46億年前であり、地球上に生命が発生したのは38億年前らしい。講演録によると、現在の動物の原型になる脊椎動物が現れたのは、5億4000万年前、古生代のカンブリア紀だという。この時期、生物は海の中で進化し、爆発的に生命の多様化が進んだ。いわゆる「カンブリア爆発」である。その後の5億年間に、大量絶滅が5回生じたという。大量絶滅後は、生き残った生物が大進化を遂げた。例えば、初回74 ファイナンス 2021 Feb.連載私の週末 料理日記

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