ファイナンス 2021年2月号 No.663
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新興国の各20か国)から収集したデータを用いて、各国のソブリン債の利回りと気候変動リスクには正の相関がみられる一方、ソブリン債の利回りと気候変動リスクに対する弾力性には負の相関があること、また、この気候変動リスクショックは、ソブリン債の利回りに長期間で影響を与えること等が示されているとの説明が行われた。セッション2:Managing Fiscal Risks:Main challenges1. 財政リスクの管理–IMFのツールキットと国際経験からの教訓(Manal Fouad IMF財政局アシスタント・ディレクター)この発表では、COVID-19感染拡大を踏まえつつ、各国政府が財政リスクをどのように認識し、管理すべきかについての説明が行われた。財政リスクの要因はさまざまであり、マクロ経済だけでなく、国有企業、政府保証、地方自治体など広範囲に及ぶこと、それらは互いに相関しており、大きなリスクとして顕在化する傾向があることが説明された。また、新型コロナウイルスの感染拡大が、政府債務と財政赤字に与える影響は2009年の金融危機よりも大きなものとなることが想定され、アジア太平洋地域においても、債務の増加、特に先進国における債務の増加が大きなものになることが見込まれる旨が指摘された。次に、各国政府の新型コロナウイルスへの対応について、当面、感染拡大防止に全力を挙げ、適切な措置を実施する必要があるが、事後において、財政の持続可能性の確保や財政リスクの管理のための措置を取る必要があることが指摘された。財政リスクに対する理解を深め、管理を改善するために、IMFでは「Fiscal Transparency Code」を定めるとともに、さまざまな分析ツールを準備している旨の説明があり、また、インド、バングラデシュ、インドネシア及びフィリピンにおける財政リスク管理のための取組が紹介された。2. フィリピンの新型コロナウイルス下における財政リスクの管理(Rosalia V. De Leon フィリピン財務局長官)この発表では、新型コロナウイルス下におけるフィリピン政府の財政リスク管理についての説明が行われた。フィリピンでは、COVID-19感染が拡大する前は、高いGDP成長率、安定したインフレ率、公共インフラの近代化加速、債務比率の低下が続いていたが、感染拡大によって先行きに不透明感が広がり、経済見通しが悪化したとの説明があった。感染対策としては、コミュニティ隔離措置や大規模なロックダウンが実施され、人の移動や事業運営の制限等の措置が取られたが、それによって経済活動の停滞と国際的な商品の価格下落が生じ、政府収入が急激に減少した旨の説明が行われた。この危機に対応するため、フィリピン政府は、(1)これまでのやり方にとらわれない資金管理(政府機関の余剰現金の活用、国有企業からの配当の前倒しの受取り等)、(2)金融政策当局や立法府との調整、(3)長期的な財政の持続可能性の担保、(4)信頼性のある回復計画の策定、(5)効果的なコミュニケーション戦略等の施策を講じた旨の説明があった。3. 新型コロナウイルスからのバングラデシュの回復 財政リスクの管理:主な課題 (Abdur Rouf Talukder バングラデシュ財務省財務長官)この発表では、COVID-19感染拡大下におけるバングラデシュ政府の財政リスク管理についての説明が行われた。バングラデシュ経済は、新型コロナウイルスの世界的拡大感染による貿易の縮小によって大きな打撃を受けたが、内需を中心に5%程度の成長を維持しており、政府は、医療面での対応とともに、経済への打撃を緩和するため、GDPの4.34パーセント相当の1.21兆バングラデシュタカ(142.8億米ドル)の規模にのぼる21の経済刺激策を発表したと説明があった。当面の財政運営の課題として、輸入の減少や輸出増加の鈍化、想定を下回る歳入、医療サービスと経済刺激策の実施のための追加的資金の確保、財政赤字の拡72 ファイナンス 2021 Feb.連載日本経済を 考える

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