ファイナンス 2021年2月号 No.663
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策によって、企業の倒産が回避され、低い失業率が維持されており、経済悪化の悪循環が回避される一方、流動性の供給によって、企業の債務が増加していることにも留意が必要であることが指摘された。また、将来のパンデミックや自然災害によるショックが生じることに備えて財政面での対応力を確保しておくこと、実際に悪影響が生じた場合に支援が必要な対象を迅速に見定めること、適切なコミュニケーションを行うことの重要性も指摘された。3. インドネシアにおける新型コロナウイルスの影響への対処における財政政策の役割について (Febrio Nathan Kacaribu インドネシア財務省財政政策局長)この発表では、COVID-19感染拡大下におけるインドネシア政府の財政政策についての説明が行われた。インドネシア経済は、新型コロナウイルスにより大きな影響を受けたが、政府は財政赤字を対GDP比3パーセント以内に抑えるルールを一時的に緩和し、GDPの4.2パーセントの包括プログラム(National Economic Recovery Program)を策定し、貧困層への現金給付等の社会保障、補助金やファンド設立等による零細企業の持続支援、企業の資金調達援助、影響を受けたビジネスの税負担軽減等による緩和策等を講じていること、これらにより、2020年のGDP成長率の減少と財政赤字拡大が、G20各国及びASEAN各国と比較して比較的緩やかであることが紹介された。2021年の予算方針については、国民の生活の質の向上のため、教育の質向上、国民の健康維持、社会保障改革、インフラの整備等を優先項目として掲げており、また、構造改革として、人的資本育成、インフラ開発の継続、雇用創出を目的とした規制緩和、官僚的形式主義の断絶、経済変革を掲げているとの説明があった。刊行物紹介コーナー1. Fiscal Monitor 第2章 -経済回復のための公共投資- (Paolo Mauro IMF財政副局長)本発表では、IMFが2020年10月に公表した「Fiscal Monitor」の Chapter 2 の「 Public Investment for the Recovery」の紹介が行われた。COVID-19の感染拡大が進む段階では、医療の提供や事業・雇用の継続などの緊急的な支援が必要とされるが、感染の拡大が抑制され、経済活動を再開する局面では、失業者が多く、財政余力があり、インフラが不足している国においては、段階的に雇用を拡大していくために公共投資が重要な役割を担うことが期待されること、その際には効率的な公共投資の実施が必要とされるため、ガバナンスのあり方が重要であることが指摘されている。2. IMFとインフラ投資のガバナンスについて (松本千城 IMF財政局審議役)続いて、インフラ投資のガバナンスに関するIMFの出版物「Well Spent:How Strong Infrastructure Governance Can End Waste in Public Investment」及びインフラ投資のガバナンスに関する新たなウェブサイトについて紹介が行われた。IMFでは、非効率な事業実施により、インフラ投資による潜在的な便益の3分の1以上が失われているとの推計が行われており、この特徴は、低所得国を中心に顕著であるとされている。そのため、公共投資の効率性向上にはインフラ投資のガバナンスの強化が不可欠であることから、IMFでは、公共投資マネジメント評価(Public Investment Management Assessment:PIMA)を推進しており、2015年以降、60か国以上に対して、PIMAを通じた支援を行っているとの説明が行われた。また、IMFのインフラガバナンスに関する評価ツールや刊行物、セミナー等の情報を掲載した新たなウェブサイトが紹介された。3. 気候変動リスクとソブリン債のコストについて (John Beirne ADBIリサーチ・フェロー)本発表では、ADBIとロンドン大学(SOAS)の研究者による共同論文「Feeling the Heat:Climate Risks and the Cost of Sovereign Borrowing」の紹介が行われた。論文では、気候変動リスクとソブリン債の関係について分析が行われており、40か国(先進国と ファイナンス 2021 Feb.71シリーズ 日本経済を考える 109連載日本経済を 考える

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