ファイナンス 2021年2月号 No.663
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(各セッションの概要)歓迎挨拶フォーラムの冒頭で、岡村健司財務官と園部哲史ADBI所長が歓迎挨拶を行った。岡村財務官からは、COVID-19感染拡大のなかで、アジアにおける経済回復のための財政政策と財政リスク管理という2つのテーマについて、本フォーラムを通じ、アジア諸国にとってのさまざまな課題の解決につながる議論が展開されることへの期待が述べられた。また、園部ADBI所長からは、アジア諸国にとって、環境に配慮し、包摂的な成長に資する公共投資の役割発揮のための財政政策や、経済回復と債務の持続可能性に対するバランスの取れた支援及びこれらに伴うリスク管理について、本フォーラムで議論を深める重要性が述べられた。歓迎挨拶をする岡村健司財務官(写真上段中央)オープニング・プレゼンテーション続いて、アジア諸国が直面するマクロ的な観点からの財政運営上の課題をテーマに、Odd-Per Brekk IMFアジア太平洋局副局長から基調講演が行われた。COVID-19の感染状況は各国で異なるとした上で、IMFが2020年10月に公表したアジア太平洋地域の経済見通しが紹介され、COVID-19への対応に係る財政政策の規模や具体的方法が各国で異なっていることが示された。また、短期的には回復に向けて焦点を絞った政策が重要である一方、長期的には、所得格差の是正や、気候変動に対応した投資、及び包摂的な社会の実現によって、持続可能な成長を目指すことが重要であるとの説明があった。セッション1:Designing Fiscal Strategies for Recovery:Main challenges1. 経済回復に向けた財政戦略の構築における主要な課題について (Vitor Gaspar IMF財政局長)この発表では、経済状況が異なる国の間でCOVID-19への対応がどのように異なっているかを比較するため、先進国の例として日本、新興国の例としてインドネシア、低所得国の例としてバングラデシュの3か国がとりあげられ、COVID-19感染拡大への対応やマクロ経済への影響が説明された。COVID-19感染拡大に対応するため財政支出を拡大した結果、政府債務が急増しているが、基礎的財政収支の悪化の規模は大きく異なっており、全世界的傾向として、先進国>新興国>低所得国の順に、財政悪化の規模が大きかったこと等が指摘された。また、COVID-19の感染拡大は、対面でのコンタクトを必要とするセクターから、他のセクターへの需要の変化をもたらすなど、人々の行動の変容をもたらしており、それに対応した経済構造の変化を促していく必要性が強調された。また、長期的には、気候変動に対応していくために、根本的な転換に向けて主体的にコミットしていく必要があることが述べられた。2. 日本における経済回復に向けた財政戦略と主要な課題について (上田淳二 大臣官房経済財政政策調整官 兼 財務総合政策研究所 総務研究部長)この発表では、COVID-19感染拡大下における日本の財政政策及び今後の課題についての説明が行われた。日本では、COVID-19感染拡大が始まってから、早い段階で、令和2年度第一次・第二次補正予算を成立させ、医療体制の強化、事業と雇用継続のためのさまざまな給付措置や金融支援を速やかに実施したことが紹介された。それによって、4月から5月にかけて緊急事態宣言が発出されたが、国内の事業と雇用が維持され、GDPの落ち込み幅は、他の先進国より小幅に留まったことが説明された。特に、企業向けの支援70 ファイナンス 2021 Feb.連載日本経済を 考える

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