ファイナンス 2021年2月号 No.663
71/92

30%くらいのマーケットバリューを占めています。企業の価値というものは、ROE、無形資産、そしてESG、この3つのファクターの重み付けをしたもののベクトル、集合体ではないかと考えています。GAFAの高い時価総額の背景には無形資産に対する期待があるわけです。無形資産やESGをどう具体的な価値にするかという問題については、ヨーロッパの総合化学メーカーや自動車部品メーカーなどで組織する「Value Balancing Alliance」に当社も参画し、非財務の部分を数値化し、新たな企業価値算出方法を確立するための作業に取り組んでいます。5.日本の国家価値と日本企業の進路1.三次元で国家価値を測る国家価値も企業と同じような解析ができないでしょうか。GDP、共有経済、循環経済その他の諸々のファクターを取り込んだ人々のWell-beingとお金の関係をX軸、テクノロジーをY軸に、サステイナビリティ、すなわち財政あるいは社会保障、教育、人口問題、エネルギー問題等々をZ軸として、三次元で国家価値を測ることができると思います。2.令和日本の針路この30年間、日本のGDPはほとんどフラットになってしまいましたが、内閣府の調査によると国民の大多数が現在の生活に満足してしまっています。現在の生活にどうして満足なのでしょうか。そうした中で世界の競争力ランキングを見ると、日本はどんどん下がってきています。本当にこれでいいのでしょうか。Data Free Flow with Trust(信頼性のある自由なデータ流通)やTPP、RCEPといった経済連携分野において、日本は今非常に良いポジションを獲得しているわけですから「Global Agendaの深刻化(気候変動とかエネルギー・水・食糧・感染症等)」、「対立や障壁の拡大」、「理念の乱立」が進む中で、日本は世界の調整役を目指すべきではないでしょうか。令和の英訳は「Beautiful Harmony」であると言われていますが、私はむしろ「令」を律令の令、つまりコードと捉え、世界のコードをハーモナイズ(調和)する、そういう調整役を目指してほしいと思います。日本は極めて俊敏さに欠け、総花主義、自前主義、横並び主義、似非(えせ)グローバル主義、事なかれ主義、妬み嫉みの社会です。こういう社会から脱却しない限りは世界の中では勝てません。そのための最後の原動力は国民の「ガッツ」であり、「知的ハングリー精神」です。これをどうやって取り戻していくのかが課題だと思います。不条理なパンデミックが引き起こした大きな行動変容を引き金にして、コロナ以前に立ち戻るのではなく、「不条理」から「『非』条理」へ、単なる演繹的な条理という時代ではなくて、少し飛び越えた不連続な対応ができるような、そういう風土をどうやって作っていくかということが今の日本には求められている気がします。講師略歴小林 喜光(こばやし よしみつ)株式会社三菱ケミカルホールディングス取締役会長東京大学大学院 相関理化学修士課程修了。ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科、ピサ大学(イタリア)化学科留学。1974年三菱化成工業株式会社入社。2007年株式会社三菱ケミカルホールディングス代表取締役社長。2015年、同社取締役会長に就任(現職)。2015年4月から2019年4月まで経済同友会代表幹事。総合科学技術・イノベーション会議議員、規制改革推進会議議長などを歴任。著書に「地球と共存する経営―MOS改革宣言」(日本経済新聞出版)、「KAITEKI化学 サステイナブルな社会への挑戦」(CCCメディアハウス)など多数。 ファイナンス 2021 Feb.67職員トップセミナー 連載セミナー

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る