ファイナンス 2021年2月号 No.663
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ら、現在、海洋プラスチックごみが問題になっていますが、植物由来ポリマー、生分解性ポリマーという海水の中で1、2年したら消えてなくなる樹脂がありまして、これも30年間研究開発をして2万トンのプラントがずっとアイドリングして3,000トンしか売れなかったのですが、ここへ来て急に海洋プラスチックごみで脚光を浴びたら、もう2万トンでも足りないぐらい急激に売れ出しました。研究開発とかイノベーションというものは、バーチャル系は短い時間でものになりますが、素材や製造業は最低10年間かかります。ですから、儲かればいいということでしたら、こういう研究開発はやらないのにこしたことはないのですが、将来を考えると、こういうところにどういう配分をしてお金を使うかが非常に重要です。これは、国も全く同じだと思います。案外知られていませんが、プラスチックごみ問題に対応するため、世界の代表的な化学会社とプラスチックを使う側の会社とが、「Alliance to End Plastic Waste」というアライアンスを組んでいます。そのアライアンスのExecutive Committee Member企業は5.5億円×5年の会費と5年間で40億円の開発投資という多額の資金を使ってプラスチックごみ問題に取り組んでいます。三菱ケミカルホールディングスもExecutive Committee Memberとなっています。3.The Global KAITEKI Centerの設立「地球快適化インスティテュート」という新たな組織を2009年に立ち上げ、サステイナビリティの分野で先進的なアリゾナ州立大学と連携して、2019年4月に同大学内に「The Global KAITEKI Center」を設立いたしました。先程、「KAITEKI」というスローガンをアルファベットにした意味をお話ししましたが、ようやく「KAITEKI」を世界語にすることへのスタートを切ることができました。「The Global KAITEKI Center」では、「未来社会における事業の価値の可視化」「化学産業へのCircular Economy概念の導入」「食品廃棄物の削減」「都市の熱マネジメントと材料開発」といった議論をしています。また、当社では、2050年の目指すべき社会を念頭に、MOS視点で社会課題・環境課題解決のために取り組むべき事業領域を抽出し、今年と来年、しっかりした地域経営計画を作るための作業をしています。いわばSustainability and Health for Human Well-beingというコンセプトを基に、グリーンハウスガスの低減、そしてカーボンリサイクル、水の純化、ヘルスケア、デジタルの基盤を中心に議論しています。4.ポートフォリオトランスフォーメーションここまでManagement of Sustainabilityに関するお話をいろいろしてきましたが、ではManagement of Technologyの部分についてはどう考えていけばよいのでしょうか。石油化学や石炭化学、鉄鋼の会社も、アフターコロナの時代においては、明らかにデジタルトランスフォーメーションをベースにしてポートフォリオトランスフォーメーションをしなければいけないのであり、最近ようやく尻に火が付いた状態になってきています。経営というのは新陳代謝、ポートフォリオトランスフォーメーションそのものであるというのが私の実感です。「新しく生む部分(次世代事業)」「とても成長していてそこに投資する部分(成長事業)」「儲けてはくれるが、明日がない部分(キャッシュカウ事業)」「全くの赤字が何年も続いて、いかにEXITしていくかという部分(撤退)」という4象限をしっかり管理して、それを回していくことが必要です。石炭化学や石油化学は非常に重要な産業でしたが、こうした二酸化炭素を大量に排出する事業からいかに果敢に撤退するかということと同時に、一方でサイバーフィジカルシステムをどう取り込んでいくか、このダイナミズム、新陳代謝がやはり経営の最も重要な部分だと思います。4.企業価値の新しい潮流企業価値の源泉が、有形資産(工場設備等)から無形資産(人材、技術、ノウハウ、ブランド等)に変わってきていますが、日本はまだ遅れていると思います。アメリカでは1990年代から無形資産と有形資産への投資が並行的に行われ、現在は無形資産への投資が中心です。ESG投資については、マーケットに9,800兆円のお金があるとしたら、株としてのESG投資は日本の場合2,000兆円ぐらい、すなわち20%~66 ファイナンス 2021 Feb.連載セミナー

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