ファイナンス 2021年2月号 No.663
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2.パンデミックがもたらしたもの(1)茹で蛙に蛇をこのパンデミックによって日本はどうなったのでしょうか。私は4、5年前から日本は「茹で蛙」の状況を呈していると考えています。GDPもこの10年間フラットな状態であり、新しい産業も出てこない、このままでは茹で上がって死んでしまうという危機感をずっと発信してきました。蛙の天敵である「蛇」はなんでしょうか。ひとつは、私が東芝の社外取締役で取締役会議長を務めた経験からすると、アメリカやヨーロッパの一部の機関投資家やアクティビストだと思います。日本の生ぬるい資本効率、黒字でさえあればよいだろうという程度の意識でいる日本の経営者を目覚めさせることが必要だと思います。もうひとつは、「ファースト・ペンギン」たりうる若者、あるいは社内でも若くて元気な人間です。AIや機械学習、ベンチャーを興そうという若者が東大を中心に相当数出てきています。私は「蛇」になれるのはこの2者しかいないと思っていたのですが、気が付いたら「蛇」は新型コロナウイルスだったというわけです。(2)デジタル化加速とサプライチェーン改革新型コロナウイルスでデジタルトランスフォーメーションが一気に加速しました。オンライン診療や遠隔教育、WEB会議といったものです。今後、全部がそのままではなくハイブリッド化していくとしても、新型コロナウイルスのインパクトとして、日本が他の国よりもデジタル化が遅れていたことに気付かせてくれました。ヨーロッパでは14世紀にペストが流行し、半分近くの死者が出た結果、15~16世紀にルネッサンスが花開いたように、日本は新型コロナウイルスをきっかけに「デジタル・ルネッサンス」を目指すくらいの気概が必要だと思います。パンデミックによって加速されたものがデジタル化だとすれば、変革が求められるようになったものはサプライチェーンです。米中の対立などもあって、サプライチェーンを相当変えていかなければならなくなりました。新型コロナウイルスはデジタル化の加速とサプライチェーンの変革、この2つにとっての「黒船」になったのだと思います。(3) 新型コロナウイルス発生前後における時価総額の動きこの30年間の株式時価総額世界上位10社の変化を見てみると、30年前は上位10社のうち7社が日本企業でしたが30年経って気が付いたらGAFAとマイクロソフトだけで東証一部上場の全企業を合わせた時価総額(約630兆円)を超えてしまっていることです。個別にみてみますと、新型コロナウイルスの発生によって東証一部上場企業の時価総額は1割以上下がった後若干戻してきてはいますが、GAFAやマイクロソフトといった分野の時価総額は、コロナ禍で明らかに伸びています。そして、テスラがトヨタの、ZoomがIBMの時価総額を抜くなど、バーチャル系のビジネスがこの半年で大幅に伸びてきています。(4)モノからコトへ(リアルとバーチャル)明治以来の殖産興業、富国強兵を支えてきた「重さのある」経済から、医薬品のようなマイクログラム(㎍)単位の経済になり、いずれバーチャル、サービス業に代表される「重さのない」経済へと移っていく、これは我々が日々実感しているところです。この「重さのある」経済から「重さのない」経済への変化をわかりやすく示すため、高校で習う複素数「a+bi」に例えて考えるとわかりやすいと思います。ここでは、aは「モノ、物質」(atom)、biは「コト、情報」(b:bit、i:internet/ intangible)を表すこととしましょう。例えば、トヨタはこれまでの「モノ」の分野から、サンフランシスコに人工知能の研究所を作ったように「情報」のAI分野へ進んでいく、グーグルは逆に「情報」から「モノ」である自動車産業へ、というように相互乗り入れの時代が来たというものです。日本は、サイバーフィジカルシステムという形で、こうした相互乗り入れには強いと思います。GAFAなどのプラットフォーマーはインターネットの世界単独で勝負してきたのですが、それに対して日本は「モノ」の情報、正確なデータがたくさんあるので、「モノ、物質」(a)と「コト、情報」(bi)をうまく組み合わせるサイバーフィジカルシステムで今後リカバリーショットを打つべきと言われています。有形資産を中心とした「モノ」の時代の時代から無形資産を中心と ファイナンス 2021 Feb.63職員トップセミナー 連載セミナー

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