ファイナンス 2021年2月号 No.663
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめにみなさんこんにちは。小林です。私は2007年に社長を拝命し8年ほど務め、現在、会長として6年目になります。この十数年の経験を踏まえて、日頃考えてきたこと、日本の民間企業のマネジメントが考えていること、その一部を少しでも知っていただければという思いでお話しします。本日の講演は「地球と共存する経営」という大きなテーマを掲げていますが、これは2011年の暮れに出版した本のタイトルです。企業価値を考える場合、時価総額とROE(自己資本利益率)で表現される資本効率だけ見ていればよいとは思いません。ESG(Environment、Social、Governance)あるいはSDGs(Sustainable Development Goals)なども重要です。また、企業の利害関係者は、必ずしも株主だけではなくて最終的には地球です。地球が滅んでしまったら、国家も産業も成り立たないわけであって、人類はそのぎりぎりのところまで来ているのではないか。これは100年も前からヨーロッパを中心に言われ続けてきたことです。我々三菱ケミカルホールディングスとしても、現在、盛んに言われている二酸化炭素の問題、海洋プラスチック問題、食糧問題、水の問題などに直接関わっています。かつて1950年代には、化学は公害の別名とされ、化学会社は学生に人気がありませんでした。しかし、現在ではそういう産業だからこそ今やソリューションを提供する「Solution Provider」たり得るだろう、そういう思いで「地球と共存する経営」という本を出版したわけです。本日は、大きく4つの項目に分けてお話いたします。1つ目は「不確実な世界にどう向き合うのか」ということです。この新型コロナウイルスの感染拡大がはじまる前から、不確実な時代に我々は生きているのだと言われておりましたが、時代はまさに革命期にあるというお話をします。また、今年、世界に猛威を振るっているパンデミックによって、デジタル化やバーチャルな部分の拡大が加速して何をもたらしたのか、さらに、最大のキーワードである「サステイナビリティ(持続可能性)」についてお話しします。2つ目は「企業価値の創造に向けた実践」です。この時代に民間企業はどういう価値をつくっていくべきなのか。時価総額が一番わかりやすい企業価値なのかもしれませんが、それだけでよいのか。我々企業が企業価値をどう考えるのかについてお話しします。ところで、自動車会社ならひとつのエンジンと4つの車輪を持つ乗り物、ビール会社なら約5%のアルコール水溶液など、何を作る会社なのか明快ですが、化学会社は何をしている会社なのかわかりにくい。真っ黒になってコークスを作っている社員もいれば、クリーンルームの中で真っ白な薬を作っている社員もいる。このような企業をまとめるコンセプトとして、私は「快適を社会にサプライする企業体」と整理して「KAITEKI経営」という言葉を使っています。アルファベットを使っているのは、「KAITEKI」を世界語にしたいという思いからです。3つ目は「企業価値の新しい潮流」です。今、ESG投資が2割から3割という時代になっています。企業価値はどういう方向に進んでいくのかということにつ令和2年10月21日(水)開催小林 喜光氏(株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役会長)地球と共存する経営演題講師職員 トップセミナー ファイナンス 2021 Feb.61連載セミナー

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