ファイナンス 2021年2月号 No.663
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コラム 海外経済の潮流132大臣官房総合政策課 渉外政策調整係長 藤田 豊デジタル人民元中国では、目下デジタル人民元の実証実験を着々と進めている。狙いは人民元の国際化、ひいては国際基軸通貨ドルへの挑戦といった国際的な観点に重点があるとする意見もある。本稿では、デジタル人民元の開発経緯を見ていくとともに、推進するその背景について考察する。科学技術振興機構(※1)によれば、デジタル人民元の開発経緯は、・2014年に中国人民銀行内に専門チームを設立し、デジタル通貨の調査を正式に開始・2017年に「中国人民銀行デジタル通貨研究所」(北京)を設立し、デジタル通貨技術及び応用研究に着手・2018年には「深圳金融技術有限公司」、「南京フィンテック研究イノベーションセンター」、「中国人民銀行デジタル通貨研究所(南京)応用モデル基地」を設立となっている。そして、2019年6月、Facebookによるブロックチェーンベースのステーブルコインであるリブラが2020年に発行予定であると発表されると、同年7月には中国人民銀行の研究局・王信研究局長は国内での学術研究会の席上で、デジタル人民元の発行の研究について承認したことを明らかにし、国内向けとは言え、初めてデジタル人民元の発行計画の存在を正式に明らかにすることとなった(※2)。その背景にはFacebookの打ち出したリブラ構想への警戒があったと言われている。2020年4月には実証実験を4都市で実施することが公表され、順次実証実験が進められており、10月には深セン市において、市政府が実施する消費促進政策の一環として、人民銀行と共同でデジタル人民元を抽選で5万人に1人200元(約3,200円)、計1,000万元を配布し、実証実験を行った。また、これまでの4都市での実証実験では400万回の個別取引において20億元(約2億9,900万ドル)以上の新しいデジタル通貨が使用された(易綱中国人民銀行長2020年11月)。さらに、法律面においても、「暗号法」が2020年1月に施行、人民銀行法改正法案が同年10月に公表されるなど、デジタル通貨発行に向けた法整備が進められている。以上のように、中国が世界に先行してデジタル通貨の開発を進めている背景として次の3つが考えられる。第一に、中国ではデジタルトランスフォーメーションが急速に進んでおり、日常生活や企業経営にデジタル化の裾野が広がっていることである。実際、中国の決済におけるキャッシュレス比率が70.2%まで増加するなど【図1】、他の先進諸国と比較しても高い水準であり、足元では4G契約件数【図2】、電子決済回数(非金融機関)【図3】も堅調に増加している。また、技術開発の面でも、2016年頃から中国企業による5G関連の特許出願数は急増しており、足元では世図1:各国のキャッシュレス決済比率の状況(2017年)010097.770.262.159.956.153.347.445.542.721.416.680604020韓国中国カナダオーストラリアイギリスシンガポールスウェーデンアメリカフランス日本ドイツ(%)(出所)世界銀行「Household nal consumption expenditure(2019/12/19更新)」、    BIS「Redbook(2017年)」の非現金手段による年間支払金額17から算出    ※中国に関しては、Euromonitor Internationalより参考値として記載図2:4G契約件数(百万件)01,4001,2001,000800600400200135791113579111357911135791113579201620172018201920201,293468(出所)中国産業情報技術省58 ファイナンス 2021 Feb.連載海外経済の 潮流

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