ファイナンス 2021年2月号 No.663
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消費者の課題・しかし、消費者のメリットが情報提供への不安感を上回らなければ「情報銀行」の利用は進まない。消費者の利用意向をみると、情報の集約のみを行うPDSと比較して、第三者への提供を想定する「情報銀行」の利用意向は低い(図表7、8)。・一方で、先述のサービス仲介型が想定しているようなユースケースを例示された後では「情報銀行」の利用意向が高まっており、情報管理に敏感な層の方がその割合も大きい(図表9、10)。・消費者の利用意向の低さは、情報管理への不安だけでなく、PDを利活用するメリットが十分に消費者に認知されていないことが課題として考えられる。図表7 「情報銀行」の利用意向3.615.129.948.646.826.419.79.9情報銀行PDS100%80%60%40%20%0%(n=10,000)利用したいどちらかと言えば利用したい利用したくないどちらかと言えば利用したくない図表8 「情報銀行」を利用したくない理由(n=3,451)08070605040301020(%)PDを第三者に預けたくないからPDを集約すると漏洩した場合が怖いからPDを第三者に管理されたくないからPDを利活用されたくないからPDを自分で管理したいから図表9 PD活用事例説明後の 利用意向の変化100%80%60%40%20%0%(n=10,000)高まった少し高まった少し低くなった低くなった変わらない図表10 属性別の「情報銀行」の利用意向サービスを利用停止する消費者(n=279)設定変更等の行動を取る消費者(n=567)何も行動しない消費者(n=154)個人情報漏洩等の報道を見聞きした時に0%30%20%10%利用したいやや利用したい「情報銀行」普及の方向性・サービスごとの消費者の利用意向を見ると、PDS型にみられるパスワード管理サービスよりも、医療や災害時に役立つサービスの利用意向が高い(図表11)。これらのサービスは消費者の医療情報や位置情報等、センシティブなPDの第三者提供が必要だが、同時に消費者の感じるメリットも大きい。・日本経済研究センターによると、自身の健康診断等の結果を提供し、代わりに健康に関するオーダーメイドなアドバイスを受けられるというビジネスに対して、健康に関心のある消費者は対価を支払って利用する意向があり、サービス次第では消費者の利用料でマネタイズする可能性が示されている(図表12)。この結果を試算すると日本全体では年間208億円の市場規模になる。・「情報銀行」ビジネスの成功には消費者、情報利用企業双方の利用拡大が必須である。消費者の利用意向の低さが課題である現段階では、消費者がメリットを感じやすいオーダーメイドサービスを起点に、PDの利用に関心の高い消費者を引き付けていくことが必要ではないだろうか。図表11 サービス別の「情報銀行」の利用意向100%80%60%40%20%0%(n=1,000)3.76.210.610.312.313.319.226.035.434.340.736.632.027.324.942.338.031.427.028.5⑤④③②①①位置情報を登録することで、地震の時に交通状況や最短経路がわかる②過去の処方箋を登録することで、自分に合う薬を他の病院で処方してもらえる③各種パスワードを登録することで、忘れてもすぐに取り出せる④就職や転職時に必要な個人情報を登録することで、複数サイトへの登録の手間が省ける⑤商品や企業のファンが集まるコミュニティに参加できる利用したいやや利用したい利用したくないあまり利用したくない図表12 健康関心層の感じる健康アドバイス事業の便益3591,9751,6401,0251,298▲5,579(n=2,328)07,0006,0005,0004,0003,0002,0001,000研究機関・公的機関ガイドライン準拠データポータビリティ補償のための保険サービスに対する抵抗感支払い余地(円)(出典)野村 敦子「個人起点のデータ流通システムの形成に向けてーイギリスのmidataの取組みから得られる示唆」、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「データ流通・活用ワーキンググループ第二次とりまとめ(概要版)」、総務省「令和2年版 情報通信白書」、総務省「委託先候補提案概要」、(株)JTB/大日本印刷(株)「【観光】情報信託機能を活用した次世代型トラベルエージェント実証について」、(株)マイデータインテリジェンス・HP、(株)DataSign・HP、石垣一司・下野暁生「共助と共創のためのプラットフォーム コミュニティ型PDS/情報銀行の構想」、株式会社インテージ「PDS/情報銀行の受容性と課題」、庄司昌彦「我が国におけるデータ活用に関する意識調査」、日本経済研究センター「健康・医療データの価値を推計する」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2021 Feb.53コラム 経済トレンド 80連載経済 トレンド

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