ファイナンス 2021年2月号 No.663
56/92

コラム 経済トレンド80大臣官房総合政策課 調査員 白井 斗京/髙根 孝次「情報銀行」ビジネスの現状と今後の展望本稿では、パーソナルデータを活用した新たなビジネスとして注目される「情報銀行」ビジネスの現状を分析し、今後の展望を考察する。「情報銀行」の概要・AI、5G等の情報通信技術を活用したSociety5.0の実現に向け、ビッグデータの流通・活用が促進されている。中でもパーソナルデータ(以下PD)の利活用については、諸外国において、GAFAに代表されるプラットフォーマー等の民間企業や各国政府等による様々な取組みが進んでいる。こうした中、日本では官民協調の方式による「情報銀行」ビジネスの構築が進められている(図表1)。・「情報銀行」とは、個人との契約等に基づき個人のデータを管理し、個人の指示又は予め指定した条件に基づきデータを第三者に提供する事業である(図表2)。PDの利用方法は、プラットフォーマーによるビジネスのように企業が決めるのではなく、消費者自身が決める仕組みとなっている。消費者は、PDを集約・管理するが、第三者に流通はさせないパーソナルデータストア(以下PDS)として活用したり、個人を特定できない匿名加工情報としての流通のみを認めたりする等、柔軟にPDの流通をコントロールすることができる。・「情報銀行」ビジネスに許認可は必要なく、任意の認定資格が存在するのみであり、認定有無を問わず様々なビジネスを展開する企業がみられる(図表3)。図表1 パーソナルデータ利活用に向けた各国の取組例国取組主体・姿勢事業内容米国民間企業(GAFA)検索エンジンやアプリ等による総合デジタルサービス無料でインターネットサービスを提供する代わりに消費者の行動履歴から得られるビッグデータを収集・分析中国民間企業芝麻信用アリペイ(アントフィナンシャル社のオンライン決済サービス)付帯機能として開始された信用スコアサービス英国政府主導Midata (マイデータ)企業が保有する個人データを受け取り、当該データを用いることで他の事業者からのより良いサービスを受けることができるシステム日本官民協調情報銀行個人との契約等に基づき個人のデータを管理し、個人の指示又は予め指定した条件に基づきデータを第三者に提供する事業図表2 「情報銀行」ビジネスのモデルAとBのデータを提供PDS個人預託便益個人に関するデータ事業者A個人に関するデータ事業者B事業者C個人に関するデータ情報利用企業D情報利用企業E情報利用企業F事業者から直接または間接的に本人に還元データを提供しない便益「情報銀行」図表3 「情報銀行」ビジネスに参加する 企業と取組例「情報銀行」によるデータ流通の形態・「情報銀行」により提供されるサービスは、データの流通形態に応じて(1)消費者がPDを「情報銀行」に集約し、第三者提供は行わないPDS型、(2)データ販売型、(3)サービス仲介型の3つに大きく分けられる(図表4)。・(2)のデータ販売型では、「情報銀行」に集められたPDを消費者の同意の上で情報利用企業に販売し、その収益でクーポン等の画一的な対価を消費者に還元する。情報利用企業はビッグデータをマーケティングや商品開発に活かすことができる。PDは匿名加工されるため、消費者の情報提供へのハードルは低いと考えられる(図表5)。・一方で、Society5.0で想定される新たな情報流通の形が(3)のサービス仲介型である。情報利用企業は、個人を識別可能なPDを分析することで、消費者にオーダーメイドのサービスを提供することが可能となる(図表6)。図表3中の事例のように、医療情報や位置情報等のセンシティブな情報を提供するため、消費者にとっては、情報提供へのハードルが高い一方、個人の特性に合ったサービスを享受できる等のメリットがある。図表4 PDの流通形態によるサービス分類サービス内容情報提供への ハードルPDS型消費者が自らのPDを集約、管理する。情報提供を しないデータ 販売型主に匿名加工されたPDを販売し、ポイントやクーポン等の画一的な対価を受け取る。低サービス 仲介型個人を識別可能なPDを提供し、オーダーメイドなサービスを受ける。高図表5 データ販売型の「情報銀行」情報利用企業「情報銀行」消費者PD提供・預託PD提供データ利用料ポイント、クーポン図表6 サービス仲介型の「情報銀行」情報収集企業「情報銀行」消費者情報利用企業PD開示情報利用料データ仲介料PD提供・預託データポータビリティ新たなサービスの利用・支払既存のサービスの利用・支払法人名(サービス名)事業概要状況(株)DataSign(paspit)様々なサービス上のPDを安全に集約・管理し、PDを利用したい企業からのオファーに応えることで様々なメリットを得られる。稼働済(通常認定取得)(株)マイデータインテリジェンス(MEY)各種サービスのID/PWを一括で管理でき、PDの第三者提供を許諾することで提供先企業から対価を得られる。稼働済 (認定未取得)日本医師会ORCA管理機構(株)(地域ヘルスケア情報信託基盤)ライフログ、検診、レセプト情報等を収集し、情報提供者への健康アドバイスや臨床研究に活用する。2019年度実証実験実施(株)JTB(情報信託機能を活用した次世代型トラベルエージェント)旅程情報やパーソナリティを登録することで、個人の行動、好みに合わせた、観光に関するお知らせやクーポンをもらうことができる。2018年度実証実験実施(株)J.Score(AIスコア)同社が算出するAIスコアを自らの意志で他の企業へ提供することで、情報提供料や特典等の対価を得ることができる。稼働済(認定取得)52 ファイナンス 2021 Feb.連載経済 トレンド

元のページ  ../index.html#56

このブックを見る