ファイナンス 2021年2月号 No.663
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4.今後の見通し・結語今後の見通しに関連して、以下の3点が挙げられると思われる。ハイレベルな政治的コミットメント一点目は、2021年はG7議長国を英国、G20議長国をイタリアが務め、その両国が主催するCOP26*11が予定されている。一般的に、国際的な気候変動分野においては欧州が議論や取組の牽引役を果たしてきた経緯があるが、昨年予定されていたものがコロナ禍のため延期されて行われることが決まったCOP26は、パリ協定が目標を置く2030年まで10年という節目の会議でもある。G20に関してみれば、現在決まっている来年以降の議長国が必ずしもこれまで気候変動に積極的ではなかった国が続く予定ということもあり、今年は気候変動分野においては特に重要な年といえるだろう。また、冒頭述べた通り、米国においてもバイデン新政権が当分野で何らかの国際的なリーダーシップを発揮していくことが見込まれる。国際的にみてハイレベルな政治的コミットメントには事欠かないとみられるが、同時にこれを今後如何にして各方面で実質化・実務化していくかが注目されるところである。コロナ禍への対応との関係二点目は、コロナ禍への対応という文脈である。現在、コロナ禍に対しては多くの国で景気刺激策が打ち出されたり、途上国に対する支援策が合意されてきたりしているが、コロナ禍の現状(本年1月末時点)を考慮すると、これらのファクターは少なくとも当面は引き続き気候変動分野の検討にも影響を与えるだろう。「グリーン・リカバリー」や“Build Back Better”というように、気候変動に配慮した回復政策が模索されるが、保健や景気など短期的なプライオリティに対応しつつ、財政面での制約を如何に克服できるか否かが課題となるだろう。*12*11) COPとは、Conference of the Partiesの略であり、気候変動枠組条約締約国会議のこと。同会議は、気候変動に関する国連枠組条約に係る交渉会議の最高意思決定機関であり、気候変動に関する政府間の会議では中核的な役割を果たしている。同会議は毎年開催されており、会議期間中は、国際機関や民間企業、NGO等による数多くのサイドイベントや展示会が開かれている。*12) コロナ禍を踏まえた途上国の債務救済の議論の文脈で、Debt for Climate Swapに係る議論がある。これは、債務国に対する債務再建/救済の条件として、当該国に気候変動関連投資の実施を求める枠組みであり、前身としてDebt for Nature Swapがある。Debt for Nature Swapは、1980年代の中南米における債務危機に端を発して開発されたものであり、債務再建/救済の条件として、当該国に自然保護のプログラムの実施を課す枠組みである。この枠組みには、NGOが債権者と債務国の間を取り持つスキームと、債権国と債務国が直接交渉するスキームの二つの類型があるが、一般的にはadditionalityの問題(元々予定していた自然保護活動の実施の財源に当該スキームを付け替えること)などが指摘されている。サイロ(専門毎の縦割り)の克服三点目は、中長期的に検討すべきややテクニカルなポイントとして、ファイナンスの諸課題については、各々のサイロ(専門毎の縦割り)を克服していく視点が重要になると思われる。例えば、グリーン投資の分野では、しばしば「グリーン・ウォッシュ」の問題が挙げられる。この問題は、実際には気候変動に配慮した投資や事業ではないにもかかわらず、表面上そのように装うことで資金調達等を不当に容易にしようとする問題であるが、この問題は「何を以て気候変動対策に資するとみなすか」を実務レベルで明確に定義していくことで対応しうる。このことは、特にグリーン・ボンドの発行体が政府部門である場合などにおいて、気候関連支出のタグ付けを扱うグリーン・バジェットの議論においても通じる面があるだろう。また、気候変動に関連するリスクの影響について検討する場合でも、金融規制監督とマクロ・モデリングでは、各々の前提の間に一定の整合性が求められると思われる。以上の通り、本稿では、気候変動という多面的な性格を持つ政策分野に関して、グローバルにみて総論的な事柄に軸足を置きつつ、ファイナンスとの関連性を意識しながら議論を行った。上述した通り、近年、気候変動問題は、様々な関係者の関わる部門横断的な政策課題となり、それに伴い課題としての性格も複雑化しているが、同時にこのことは、取組の賛否や方法論について、全体像を念頭に置いた議論を行うことを難しくしているという側面もある。本稿が、特にファイナンスに関わる方々にとって、この分野で検討を行う上での共通の大枠を設ける一助となれば幸いである。(参考文献)Climate 21 Project“Transition Memo Department of Treasury,”2020Climate Policy Initiative“Global Landscape of Climate Finance 2019,”2020EBRD“MDB Climate Finance Report 2019,”2020Joseph Stiglitz,Nicholas Stern“Report of the High-Level Commission on Carbon Prices,”2017Nicholas Stern“The Economics of Climate Change,”2006World Economic Forum“The Global Risks Report 2020,”2020 ファイナンス 2021 Feb.49海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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