気候変動に配慮したマクロ経済モデリングは、2018年10月に設立された「気候アクションのための財務大臣コアリション」においても、多くの国々の財務省より高い関心の示されている分野であり、今後、IMFやOECD等を中心にモデルの開発や精緻化が進んでいくと思われる。IMFなどによるマクロ・サーベイランスに如何に気候変動に係る検討を反映させていくのかも議論が行われている。(iii)グリーン・バジェット、災害リスク・ファイナンスグリーン・バジェットとは、予算や公的資金管理(PFM:public financial management)のプロセスで気候変動の要素を反映させるというものであり、気候関連支出のタグ付け(climate tagging)や気候変動に配慮した調達(green procurement)などがOECDやEU等において議論されている。災害リスク・ファイナンスは、気候変動等による自然災害が起こった際に、迅速で効果的に復旧・復興するため、財政面での備えを強化する仕組みであり(例:予備費の計上等)、ファイナンスの観点からレジリエンスを向上させていく「適応」の取組の一つである。災害リスク・ファイナンスの類型の一つである「災害リスク・プール」とは、同地域内の複数国が災害リスクをプールしたうえで再保険の形で民間の国際保険市場にアクセスするという仕組みであり、現在、災害に脆弱な東南アジア・大洋州、カリブ海等で地域的な枠組みが存在している。(iv)金融システムのグリーン化金融システムのグリーン化には、主に、(1)金融規制監督の観点から、上述した移行リスク、物理的リスクなど気候変動に係るリスクに対するマクロ/ミクロのプルーデンスを高めていくという議論、(2)気候変動に係る対応を投資の機会として前向きに捉えて、市場環境の整備を通じてその取組の促進を図るという議論、(3)グリーン・ボンドやキャット・ボンド*9など、資金使途や発行条件に気候変動の要素を反映した資金調達を促していこうとする議論などがあ*9) グリーン・ボンドとは、気候変動など環境に資するプロジェクト等の資金を調達するために発行する債券のこと。海洋保全に関するものにはブルー・ボンドと称されるものもある。キャット・ボンドとは、カタストロフィ・ボンド(Catastrophe Bonds)の略。洪水など大規模な自然災害が生じた場合に、元本返済等が免除される旨等を予め盛り込んだ債券のこと。災害保険と類似した経済的機能を有する。る。一つ目は、現在、各国中央銀行等からなるNGFSなどで検討が進んでおり、当該リスクに係るストレス・テストの実施や生物多様性リスクといった新しい類型のリスクへの対応等が議論されている。二つ目と三つ目は、ESG投資やインパクト投資、責任投資の促進といった文脈で、PRI(Principles for Responsible Investment)やEU等で関連する投資ガイドラインやタクソノミー等の検討が行われている。TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)やSASB(Sustainability Accounting Standards Board)等が扱っている企業開示や、金融機関と事業者間で促される「エンゲージメント」は、こうした気候変動に係るリスクと機会の双方を概ね対象としているといっていいだろう。(v)ブレンドファイナンス気候変動対策において民間資金動員をいかに効果的に動員するか、というのは現在に至るまでの中期的な課題であり、今後もその重要性は高まっていくことが見込まれる。この分野における民間資金規模は、グローバルで2013/2014年(2か年移動平均値)の220十億ドルから2017/2018年(同)の326十億ドルへ4年間で約5割と急増しているが(Climate Policy Initiative(2020))、特に新興国・途上国での取組は相対的にリスクが大きく、譲許性のある公的な資金との組み合わせで民間資金を促進していくというブレンドファイナンスの取組が進んでいる。ブレンドファイナンスの例としては、MDBsや気候関連ファンドなど公的な機関が民間投資家に対して、一次ロスのカバレッジや信用補完、保証などを行うスキームが挙げられる。(3) 気候変動対策に関する国際的な議論のトレンドさて、ここで再び総論としての気候変動の問題に議論の軸足を戻すことにしよう。国際的な気候変動に係る議論においては、以下のような中長期的なトレンドがみられる。 ファイナンス 2021 Feb.47海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー
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