ファイナンス 2021年2月号 No.663
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国の排出主体に対して有する削減レバレッジは非常に大きい。G7やOECDなど先進国は、気候変動に係るファイナンス(財務・金融)の個別分野でもグローバルなスタンダード・セッターとして引き続き重要な役割を果たしていくことが期待されるが、世界全体での削減効果の実効性を高めるには、新興国などそれ以外の国々も適切に関与させていく必要がある。逆に言えば、気候変動に係るどのような「スタンダード」や国際的な「枠組み」、掛け声であっても、これらの国の多くが採用し、参加していなければ、自ずと排出削減の実効性には限界が生じるものと思われる。新興国・途上国に対する開発支援の役割上記のファクトが与える政策的含意の三つ目は、中所得国・低所得国(新興国・途上国)の今後の経済開発や成長の伸びしろを考える場合、気候変動の側面を無視してそれらを進めることは、地球温暖化の観点からはリスクが高いということである。開発問題の成功体験を語るとき、我々はしばしば「東アジアの奇跡」を語ってきたが、気候変動の視点から見た場合、東アジアのトラックレコードに対する評価は複雑である。アジアのみならず、ラテンアメリカや東欧、アフリカなど、新興国・途上国における従来の開発・成長モデルをそのまま継続すれば、今後、GHG排出が急増する可能性は高い。例えば、上記【グラフ1】の原データに基づけば、仮に1995年時点のGHG排出量を100とした時、直近の2016年の値は低中所得国・低所得国計は147であり、世界平均の138を上回るペー*4) このほか、2019年9月に行われた気候アクションサミットでは、2025年までに、MDBsが全体として気候変動分野に最低年間65十億ドル分の支援を行うコミットメントが表明された。*5) 【グラフ3】中、左円グラフ「工業プロセス」とは、例えば石油化学産業におけるように、副産物としてGHGが排出される場合が含まれる。例えばプラスチック等を製造する際にはアンモニアが必要になるが、アンモニアを作り出す際には同時にCO2が排出される。逆に、こうした産業であってもエネルギーを使用することに起因する排出は、エネルギー部門(の製造・建設(右円グラフ))に含まれる。スの伸び幅となっている(ちなみに、高所得国は101。中国を除く高中所得国は119、中国は293)。欧州や日本、中国などとは異なり、これらの国の人口動態が一般的にピラミッド型であることにも留意が必要だ。排出削減を地球規模で実現していくためには、新興国・途上国における開発・支援政策面での役割がクリティカルであり、今後、気候変動と開発を一体的に検討していく局面はますます増えていくことが見込まれる。このことは、後述するように、特に自然災害など気候変動によってもたらされる悪影響に適切に対応していくためにも強くいえることである。事実、世界銀行をはじめとする多国籍開発金融機関(MDBs)全体の気候関連支援の推移をみると、パリ協定が合意された2015年以降、4年間で約7割の増加がみられるほか(EBRD(2020))、ほぼ全てのMDBsの中期的な事業戦略において、気候変動に関わる何らかの事項がプライオリティの一つに盛り込まれているところである。*4(2) 部門別にみたグローバルなGHG排出の現状気候変動対策を進めていくには、ファイナンスのみならず、実体経済の役割も重要である。グローバルなGHG排出量を部門別にみると、とりわけエネルギー部門が重要であり、排出量全体の7割をこの部門が占めていることが分かる(【グラフ3】参照)*5。この中には、産業部門、運輸部門等によるエネルギー(化石燃料や電力)使用に伴う排出も含まれている。電力部門【グラフ3】部門別に見たグローバルなGHG排出量の割合エネルギー72.0%工業プロセス6.0%土地改良/森林6.0%運輸15.0%廃棄物 3.0%農業11.0%製造・建設12.4%漏洩排出5.2%他の燃料燃焼8.4%バンカー重油2.0%電力・熱31.0%(出所)CLIMATE WATCH ファイナンス 2021 Feb.43海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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