ファイナンス 2021年2月号 No.663
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のGHG排出量の増加分のうち、その6割を中国1か国の増加で説明できる。なお、BRICSの中で比較しても、中国のこの伸びは際立っている。GHG排出量が与える地球や温暖化への影響は、基本的には産業革命など過去からの排出のストック・蓄積(【グラフ1】に落として考えるとその積分)で測る必要があるので、論者によっては先進国の影響の方が依然大きいという見方もあるかもしれないが、いずれにせよこれだけの短期間で速いペースで排出量が増加した国は他に例がないだろう。次に、それぞれの国が全世界に占めるGHG排出量の割合を多い順にプロットしていくと、合計190か国超のうち、上位10か国の占める割合は合計で約7割、上位20か国の占める割合は約8割となる(【グラフ2】参照)。逆に言えば、排出量の微小な国々が数多く存在するわけであり、自国の排出量の占める割合が0.2%に満たない国は100か国以上に上っており、典*3) Climate 21 Projectとは、米国の政府高官含む政府経験者・有識者150人超の知見をとりまとめ、新政権が気候変動分野でとるべき政策を提言したもの。財務省向けの提言のほかに、国務省やOMB、環境保護庁など他省庁・機関にも提言を行っている。型的な「ロングテール」の状況にあるといっていい。なお、こうしたロングテールの形状は、全世界の各国GDPの分布をとっても概ね類似した結果が得られる。中国に係る問題としての側面これらのファクトが与える政策的含意の一つ目は、まず、グローバルな気候変動問題というのは多分に中国の問題に関わっているということである。昨年9月、中国の習近平国家主席は中国のCO2排出量を実質ゼロに、またそれに引き続き12月、2030年までに中国のGDP当たりのCO2排出量を2005年より65%減らす、と表明したが、これらのコミットメントが地球温暖化に与えるインパクトは実に大きい。中国は、既に太陽光発電モジュールやリチウム・イオン電池、風力タービンの生産が世界でトップの地位にあり、当局側も香港が上場企業に対してESG(環境・社会・ガバナンス)関連の情報開示の強化を進めるなど、積極的に取組を進めているものの、このように全体としてみれば取組は依然として不十分といえる。また、一帯一路政策など中国が海外で行うインフラ支援に伴うGHG排出も無視できない。このように、中国の気候変動問題への取組は今後とも注視していく必要があるが、いずれにしてもグローバルでみた気候変動問題のこの側面は、地政学的、ないし関連分野に係る対中投資など経済政策的なインプリケーションを含んでいると思われる。実際、昨年11月に公表された米有識者からなるClimate 21 Project*3では、新政権下の米国財務省の気候変動問題への取組に関する提言の一つとして、バイラテラルの対中政策の検討の重要性を対EUと並んで掲げているところである。新興国等を含めた排出大国における取組の重要性上記ファクトが与える政策的含意の二つ目は、一点目とも関係する点として、実際にGHGの削減効果を上げるには、中国のみならず大国の役割が極めて重要であるということである。上記【グラフ2】でみたように、GHG排出量の分布は全体として非常に偏った形状にあり、少数の国が排出量の多くを占める状況にある。見方を変えれば、これらの国々の政府が、その【グラフ2】GHG排出量の占める割合(上位20か国)(2016年)25.00%20.00%15.00%10.00%5.00%0.00%中国米国インドEUロシアインドネシアブラジル日本イランカナダメキシコサウジアラビア韓国オーストラリア南アフリカザンビアアルゼンチンナイジェリア英国タイ(出所)CLIMATE WATCH上位5か国計上位10か国計上位20か国計21位以下合計55.13%68.85%80.14%19.86%【グラフ1】所得水準別に見たGHG排出量03025201510519952000200520102015(GtCO2eq)(出所)CLIMATE WATCH高所得国高中所得国高中所得国(中国除く)中国低中高所得国・低所得国計42 ファイナンス 2021 Feb.連載海外 ウォッチャー

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