ファイナンス 2021年1月号 No.662
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ず、一つの情報という荷物を「こういうことなのですよ」と相手に手渡しして、それを受け取って「うん」と言ってくれたらまた次の情報を渡す。聞き手の反応をしっかり見るようにして話すわけです。言いたいことはたくさんあります、時間もありません、でも、聞き手が「そうだよな」という顔をしてから次を話す、こうすることで間が取れます。よく、間が取れていない人がいますが、間が取れないのは、自分のことばかりで必死になっているからです。相手のことを考えると、間は取れます。そこで思い浮かべてほしいのは、植物を植えたプランターに水を注いでいるところです。プランターが聞き手の頭、そこに情報という水を注ぎ込むとイメージしてください。バケツに水を汲んで一度にざっとかけると一番簡単で一瞬で終わりますが、水が溢れてしまいます。つまり、このような方法ではせっかくの情報が溢れてしまうので、手間はかかりますが、少しずつ、相手が吸収したのを待ってから話してください。5.カメラとの向き合い方(1)インターホンで話すときのように話す最後に「カメラとの向き合い方」についてお話しします。「カメラがあると緊張する」「カメラがあると、どこを向いたら良いかわからない」というのが、大抵の人の気持ちでしょう。パソコンの画面の上の小さい穴に向かって話すなんて、おかしいですよね。仕方がないから、パソコンの画面に映る相手の顔を見てしまいますが、そうすると、相手と視線が合わなくなります。カメラを見なければいけないのはわかっているけれども、なかなか見ることができないのですよね。私がNHKの新人アナウンサーだった頃、先輩から「カメラの向こうに人がいると思え。その人に向かって話しかけろ」と教わりました。私が生中継をするときには、先輩アナウンサーがカメラの向こうに立ってくれて「うんうん」と頷いてくれました。そうしたら一生懸命話せます。でも、みなさんがオンラインで話をする場合には、ご家族の方にパソコンの脇に立ってもらうわけにはいかないでしょう。そこで、私なりのやり方は「インターホンで話すときのように話す」ことです。インターホンがある家に行くと、インターホンのカメラに向かって「こんにちは」と言いますよね。違和感ないですよね。インターホンの向こうには私の知っている人がいる、と思うからです。カメラだと思わず「これはインターホン」だと思うだけで大分気持ちは変わります。(2) できる限りカメラを見る・無表情にならないそして、話すときは、できる限りカメラを見てください。聞き手の印象がずいぶん変わります。聞いてあげよう、という気持ちになります。もうひとつは、無表情にならないようにすることです。レンズや画面を見ると、どうしても真顔になります。相手に向かって、その人に話す、というイメージを持ってください。6. 最後に:オンラインに求められるものオンラインのデメリットはたくさんあります。私の考えでは伝わる力が20%減る、つまり話の中身も、音声も、表情も、全部20%減になってしまいます。ということは、伝わらない、だから工夫しないといけません。それで、本日はスライド、構成、文章、話し方について、いろいろなパラメーターを伸ばすテクニックをお伝えしてきました。全部できなくてもいいので、出来るところからやっていただくと、徐々に伝え方が改善していきます。20%減になるのだったら、20%増で頑張ればよい、ということです。オンラインでは20%増で頑張っていただければ、上手くいくのではないでしょうか。講師略歴松本 和也(まつもと かずや)株式会社マツモトメソッド代表取締役京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は「英語でしゃべらナイト」司会(2001年~2007年)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007年、2008年)、「NHKのど自慢」司会(2010年~2011年)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。著書に『心に届く話し方 65のルール』(ダイヤモンド社)。85 ファイナンス 2021 Jan.上級管理セミナー連載セミナー

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