ファイナンス 2021年1月号 No.662
88/100

ている人が負担に感じないよう配慮することです」と話すと、聞き手が「何に配慮するの?」と思うことが予想できます。ですので、次のパラグラフには「何に配慮するのか?」という疑問文で見出しを付けます。配慮することは2つ、○○と××だよ、と話します。そして最後のパラグラフには「なぜだと思いますか?」と見出しを付けて理由を述べます。このパターンを使うと、だらだら聞かせるということはなくなります。私はこの「問いかけをして、その後に謎解きをする」というやり方を「一人マッチポンプ方式」と呼んでおります。知っているなら最初から答えてよ、と思うかもしれませんが、聞いている人を引き付けるために問いかけをするわけです。私はNHKで動物のドキュメンタリー番組を長い間担当していて、その番組ではこのテクニックを使っていました。例えば草むらの中にユキヒョウというヒョウがいたとします。「あ、草むらの中に何かいます。何でしょう。ユキヒョウです」というのです。「何でしょう」って聞いておいて答えを知っていたのか、という、よく考えるとおかしいなコメントなのですが、これで視聴者を惹きつけます。ここまで話したことをまとめます。「すべてを一度に言おうとしない」「結論・概要を早く言う」「見出しを付ける」「細かい情報は少しずつ付け加える」皆さん、こういう構成で話してみてください。(3)文章をシンプルにア.文を短く次は文章をできるだけシンプルにすることについてです。これは簡単です。短いのがいい。ここに2つの例文があります。A「私は、大きくて枝ぶりの良い、美しい桜の木を見ています。」B「私、見ています。桜の木です。大きいです。枝ぶりも良いです。美しいです。」どちらがよい文章だと思いますか、と尋ねられると、Aの文章の方がさっぱりしていていい、Bの文はぶつ切りでいやだ、という人が多いでしょう。でも音で聞くと、Aの文は「私は、大きくて枝ぶりの良い、美しい」まで聞いても何もわからない。私が桜の木を見ている、という聞き手が知りたいことがなかなか出てきません。文字で見るとAの文章は問題ないのですが、音というのは聞こえた瞬間に理解できないと頭に入ってこないものです。Bの文章は、ざっくり、重要なところから先に言う、細かいことを付け加える、それを細かく区切って少しずつ出しているのが特徴です。話し言葉でキレをよくしたかったらBの文章のようにするべきです。小泉純一郎元総理が2001年5月の大相撲夏場所で優勝した貴乃花関にかけた「痛みに耐えて、よく頑張った!感動した!おめでとう!」という名文句がありました。普通の人は「痛みに耐えて頑張る姿に私は本当に感動しました。心からおめでとうと言いたいと思います」と言うのですが、これだと名文句にならないですよね。小泉純一郎元総理が言った言葉には余計なことが一切省かれています。しかも一つの文章に一つの意味しかない。主語さえありません。これくらい一つ一つの文を短くすることで話し言葉は相手に強いインパクトを与えます。イ.一文の情報量はできるだけ少なくではどれくらい短くすればよいのかというと、息継ぎをせずに一息で話せる文章「5秒」・「25文字以内」というのが、私が放送していたときの基準でした。25文字というのは、A4の紙10.5ポイントで一行の3分の2ほどの長さです。話すときには、それくらいの長さの文が適正です。文が長すぎるのがわかりにくさの最大の原因です。「述語一つに文一つ」、これを覚えておいてください。話し言葉で大切なことは、余計な言葉を聞かせないことです。いろいろなことを言いたいけれども、大事なことを伝えたいのなら、「これは言わなくていいな」という部分をどれだけ削ることができるかが、話し言葉では一番大事なことです。ウ.無駄な接続語は使わないそれから、「無駄な接続語は使わない」ことにも注意してください。文が長くなる原因は「~でぇ」「~けれどもぉ、」「~ですね・・」、それから「というふ83 ファイナンス 2021 Jan.連載セミナー

元のページ  ../index.html#88

このブックを見る