ファイナンス 2021年1月号 No.662
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無かった場合に比べ悪化している*13他、休学を検討する学生が平時の2倍以上に上っていることが判明した。また、専攻を変更した学生は将来所得の低い専攻の学生に多く、STEM(Science,Technology,Engineering,Math)等将来所得の高い専攻の学生には少なく、かつ専攻変更するとしてもその結果としてより初任給の高くなる専攻を選択した学生が多かった。また、社会的に不利な状況下に置かれている学生に対する負の効果も存在し、特に両親の収入が少ない学生の学習指標に対する悪影響が拡大する傾向にある他、マイノリティ学生の専攻変更割合、非大卒の両親を持つ学生の卒業延期割合がそれぞれ大きくなっている。上記の休校の影響に関する先行研究及び、新型コロナウイルス感染拡大下での新規研究の結果は、休校と子供の学力格差の関係性を物語っている。では、生徒間に仮に学力格差がある場合、彼らの将来的な格差はどうなるか。また政府はどのように備えるべきか。次節では、休校に由来する学力格差の中長期的特性を扱う。休校措置の学力への中長期的影響Soland et al.(2020)による米国を対象とした分析は、秋に授業が再開すると仮定した場合、生徒の学力は、算数を中心としてその向上が阻害され生徒間の格差も深刻になるだろうとした上で、生徒へのきめ細かいサポートが必要であることを指摘している。またCook(2020)は2001年のイギリスの農村地域における手足口病の感染拡大と、その抑制のための初等教育機関での休校措置について研究している。この研究では感染拡大が農村地域で深刻であったことを利用した差の差推定・イベントスタディが実施されており、感染拡大が特に顕著であった地域にある52校はその他の地域11,024校に比して、算数を中心とした成績が低くなる傾向があることが指摘されている。また、この効果は翌年の2002年に最大となり、以降緩和されるものの対象期間末の2006年まで影響が観測されたとしている*14。*13) 平均GPAが0.17ポイント低下した他、半数以上の学生が感染拡大によるGPAの低下を報告している。また、13%の学生が卒業を延期する他、11%の学生が履修撤回、12%の学生が専攻を変えている。*14) 感染拡大が顕著な地域においては休校措置が長引いており、休校措置の影響度は地域や置かれている状況によって異なる可能性があることに留意が必要である。*15) 文部科学省「新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けた家庭での学習や校務継続のためのICTの積極的活用について」参照。https://www.mext.go.jp/content/20200515-mxt_kouhou01-000004520_4.pdfKuhfeld et al.(2020)は、米国の非営利法人NEWAにより2017-2018年度、2018-2019年度に実施された第3-7学年児童500万人を対象とした読解・計算能力試験(MAP Growth assessments)の調査結果を利用し、2019-2020年度の生徒の学習成果への休校の影響の推計、及び2020-2021年度の学力の予測を行っている。分析は、感染拡大による休校の学力に対する影響が(1)欠席日の50%に等しい場合、(2)夏季休校に等しい場合、(3)欠席時に等しい場合の3つの場合における学力の経過と平時の学力動向を比較する形式で行われている。一般的に欠席時の学力に対する影響は大きく、夏季休校の学力に対する影響は小さくなる傾向にあること、夏季休校においては計算能力が読解能力以上に影響を受けることが知られているが、推計の結果、2019-2020年度末の生徒の学力は13%から70%以上低下する上、標準偏差も平年のおよそ1.2倍となることがわかったとしている。一方で、生徒の夏季休暇中の学力後退とその後の年度における学力伸長には負の相関が見られるため、生徒の学力差はある程度縮まるのではないかという見解も示している。オンライン教育に関する研究わが国でも、休校期間中、オンライン講義や課題提出型学習など、通常の対面講義ができない点をカバーするための取組が実施され、現在も高等教育機関を中心に活用されている。教育で用いるワークブック等の費用については教育扶助・生業扶助において「教材費」として支給されてきたが、昨今の状況を踏まえて、教育においてICTを活用する場合、それにかかる通信料も教材費として支給されることとなった*15。このように、対面教育の代替手段としてのオンライン講義等の導入は各国の教育上の重要課題であり、国内外で研究の蓄積が見られる。先に取り上げた各種調査も遠隔教育を実施する上での課題を指摘している。Grewenig et al.(2020)は、ドイツにおける教育電子化の後進性を指摘しつつ、学71 ファイナンス 2021 Jan.連載日本経済を 考える

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